よそ行きの顔を外した母と向き合うシーンは特に難しかった
──特に難しいと感じたシーンはありますか?
「夕子とお母さんの関係性は日常の些細なやり取りからみえてくるので、家でのシーンはやはり難しかったですね。台詞やト書きが少ない分、なんてことない仕草に意味を持ってしまうこともあって。
お母さんが夕子の畳んだ洗濯物を、何気ない会話をしながらきれいに畳みなおす場面があるんですが、えりさんが明るく演じていらしたから無意識で悪意がない。だからこそ夕子を嫌な気持ちにさせていましたね」
──妹の阿部純子さん、弟の笠松将さんとの場面で印象に残っていることは?
「お母さんと妹の晶子と一緒に旅行したとき、お母さんの隣で楽しそうに腕を組んで歩いているのはいつも晶子です。夕子はなんとなくはしゃげない。晶子もお母さんのちょっと厄介な所は知っているけれど、上手に付き合えるんですよね。
次女は、お姉ちゃんとお母さんの微妙な距離感を見ているから距離の取り方を身につけているのかもしれませんが。夕子にももう少し柔軟性があったら楽なのになあと思いました。
妹役の阿部さんは試写の後、『お姉ちゃんがあんなに苦しんでるの知らなかったから、泣きました』と言ってましたね」
キム・ミニさんの演技が大好き、最近は相米慎二監督にもはまっています
──そういった夕子の感情を理解するために参考にされたものなどはありますか?
「ホン・サンス監督の『夜の浜辺でひとり』を見ました。主人公を演じるキム・ミニさんの佇まいや孤独との対峙が素晴らしくて。この作品にも母と妹と浜辺を歩きながら海を見つめるシーンがあって、キム・ミニさんのような表現が出来たらなと思っていましたが、杉田監督から『海にのまれすぎです』と言われてしまいました(笑)」
──このコーナーは人を勇気づけるエンパワーメント映画を紹介しているのですが、井上さん自身、最近、エンパワーメントを受けた映画はなんですか?
「最近は相米慎二監督の映画をよく見ています。『お引越し』や『東京上空いらっしゃいませ』など。登場人物たちがとても魅力的なんですよね」