よそ行きの顔を外した母と向き合うシーンは特に難しかった

「母が苦手」という、誰にも言えない悩みを抱える娘の物語【『わたしのお母さん』主演、井上真央さんインタビュー 】_13
夕子の畳んだ洗濯物を、その後、寛子が悪気なく畳みなおす場面。 感情のニュアンスをどこに落ち着かせるか、何度もテイクを重ねたという。

──特に難しいと感じたシーンはありますか?

「夕子とお母さんの関係性は日常の些細なやり取りからみえてくるので、家でのシーンはやはり難しかったですね。台詞やト書きが少ない分、なんてことない仕草に意味を持ってしまうこともあって。

お母さんが夕子の畳んだ洗濯物を、何気ない会話をしながらきれいに畳みなおす場面があるんですが、えりさんが明るく演じていらしたから無意識で悪意がない。だからこそ夕子を嫌な気持ちにさせていましたね」

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旅行中の姉妹のテンションの差がくっきりと表れる場面。

──妹の阿部純子さん、弟の笠松将さんとの場面で印象に残っていることは?

「お母さんと妹の晶子と一緒に旅行したとき、お母さんの隣で楽しそうに腕を組んで歩いているのはいつも晶子です。夕子はなんとなくはしゃげない。晶子もお母さんのちょっと厄介な所は知っているけれど、上手に付き合えるんですよね。

次女は、お姉ちゃんとお母さんの微妙な距離感を見ているから距離の取り方を身につけているのかもしれませんが。夕子にももう少し柔軟性があったら楽なのになあと思いました。

妹役の阿部さんは試写の後、『お姉ちゃんがあんなに苦しんでるの知らなかったから、泣きました』と言ってましたね」

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今作は去る11月に開催された東京国際映画祭NIPPON CINEMA NOW部門でセレクトされた。

キム・ミニさんの演技が大好き、最近は相米慎二監督にもはまっています

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──そういった夕子の感情を理解するために参考にされたものなどはありますか?

「ホン・サンス監督の『夜の浜辺でひとり』を見ました。主人公を演じるキム・ミニさんの佇まいや孤独との対峙が素晴らしくて。この作品にも母と妹と浜辺を歩きながら海を見つめるシーンがあって、キム・ミニさんのような表現が出来たらなと思っていましたが、杉田監督から『海にのまれすぎです』と言われてしまいました(笑)」

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海辺を歩く夕子の心情を表現するうえで参考にしたのがホン・サンス監督作『夜の浜辺でひとり』でヒロインを演じたキム・ミニさんだそう。

──このコーナーは人を勇気づけるエンパワーメント映画を紹介しているのですが、井上さん自身、最近、エンパワーメントを受けた映画はなんですか?

「最近は相米慎二監督の映画をよく見ています。『お引越し』や『東京上空いらっしゃいませ』など。登場人物たちがとても魅力的なんですよね」