幅広い世代を対象にしたアイドル

ADORを設立した理由は、本人いわく「自分が描く大きな絵を完全に具現化するため」。何よりも自身が理想とする音楽がベースにあり、そこに自身が望むキャスティング、トレーニング、デザイン、ビジネスがつながるようにしたいという。

その第1弾となるNewJeansには、ミン・ヒジンの感性が隅々までしみ込んでいる。消費者と本当のコミュニケーションを取りたいと、グループ専用のアプリ「Phoning」を開発。メンバーのメッセージや動画などがレトロなデザインの画面上で楽しめる作りは、他にはない味わいがある。

また、チャートを席巻したEP『New Jeans』は、「Weverse(HYBEのファンコミュニティプラットホーム)」専用のバージョンや、CD入りの布バッグなど、計10種類がリリースされており、サブスクに慣れ親しんでいる世代も買いたくなるようなパッケージをそろえている。こちらも既存のアイドルにはあまりなかった試みだ。

肝心の5人のメンバーだが、技術的なレベルよりも、パフォーマンスを純粋に楽しめるかどうかを優先して選んだようだ。心から楽しむ人から出るエネルギーはものすごく強力で、それを見る人までも踊らせる。それが今回のプロジェクトの意図だと、ミン・ヒジンはインタビューで語っている。

楽曲に関してはどうだろうか。
実はこれが最も慎重に制作しているようだ。韓国ではここのところレトロポップ、特にシティポップにスポットライトが当たる機会が多いものの、NewJeansはあえてその流れを避け、90年代後半の洋楽のエッセンスを取り入れている。同じ時代のK-POPアイドルたちも洋楽に影響を受けた曲を数多くリリースしており、当時を知る中高年にとってNewJeansのサウンドは懐かしく響くに違いない。

さらに言えば、単なる「模倣」に終わらず、イージーリスニング/ラウンジミュージック風に仕上げているのも注目すべきポイントである。
ミン・ヒジンは個人的に好きな音楽として、ボサ・ノバの神様であるアントニオ・カルロス・ジョビンの「デサフィナード」や「イパネマの娘」をあげているが、こうしたサウンドの根底にあるサウダージ(郷愁、切なさ、寂しさ)は、EP『New Jeans』の収録曲にも感じられるのが興味深い。

以上のような特徴を持つNewJeansは、上の世代にとっては親しみやすく、若い世代は新鮮に感じ、かつ購買欲を刺激される存在であり、またK-POPに興味のない人でも入りやすいムードがあるといった具合に、幅広いリスナーに向けて作っていることがわかるだろう。デビューしていきなりスターダムにのし上がるのも当然なのだ。