2チームで3日間の出来事を追う
9月初旬、東京・南千住にある惣菜パン屋で行われた「ドキュメント72時間」の撮影に同行した。この回のメインディレクターは、企画提案者であり番組を長年担当する岡元啓(以下、岡元D)。「ドキュメント72時間」の撮影はディレクター、音声、カメラマンの3人1組×2チームで、交代しながら行われる(2チームが一緒に取材することもある)。
この日は3日間のうちの2日目。開店は朝7時だが、搬入や仕込みといった開店準備から撮影するため、番組スタッフは明け方3時半から店の前で待機していた。はじめは岡元Dのチームだけで現場を担当し、7時に別チームと一度交代したのちに今度は2班体制で取材するという。
以前から候補だったという同店に、このタイミングで撮影が決まった理由は「値上げ」だった。原材料高騰に伴う値上げラッシュの波を受けて、同店でも8月に決断。人気のコロッケパンを270円から290円とした。プロデューサー・篠田洋祐(以下、篠田P)は「パンの値上げをお客さんがどう受け止めているのか。その声から今の時代性が少しでも切り取れるんじゃないか、と考えました」と話した。
値上げは確実に家計にダメージを与える。しかし、それゆえ悲痛の声に溢れているはずだ、という先入観は持たない。岡元Dは言う。
「事前にストーリーを決めすぎると視野が狭くなるんです。予定調和を壊すために、固定観念を排して、現場の想定外な声や出来事をそのまま受け入れます」