ポーランド訛りのドイツ語と、ポーランド訛りの英語のアクセント

これまでアカデミー賞に21回ノミネート(2022年時点)されているメリル・ストリープの演技力には、舌を巻くほかありません。私が一番好きな作品は、アカデミー主演女優賞を受賞した『ソフィーの選択』。タイトルにもなっている “選択”というのは、メリル演じるソフィーがアウシュヴィッツ強制収容所にいた時の、胸が裂けるような決断のこと。

その過去を独白する長いシーンでは、彼女の白い肌がだんだんと紅潮していくのです。表面的な演技じゃなく、肌の色まで変化していく内面からの演技は感嘆のほかありません。この作品で驚いたのはアクセントの素晴らしさ。ポーランド人のソフィーは、ドイツ語が話せるのでナチスに雇われて秘書をすることになるのだけど、そのシーンでのドイツ語はポーランド訛り。その後、アメリカに逃げて来ると、今度はポーランド訛りのつたない英語を喋るの。あの微妙なアクセントをものにできる人は他にいないでしょう。

俳優になる前はオペラ歌手志望だったそうで、耳がとってもいい人でね。『マディソン郡の橋』(1995)ではイタリア訛りの英語を見事にしゃべっていたけれど、『ソフィーの選択』の微妙な演じ分けはもっとすごい。とてつもない才能の名女優です。