岸田政権も「日本売り」の材料に

さて、日銀だけを吊し上げていればよいというものではない。投機筋の目には日本政府も投機のチャンスと映っている可能性が高いからだ。

そもそも、円が売られるのは金利や貿易赤字も材料だが、何よりも日本経済に「買い」材料がないからだ。賃金が上がらず、デフレから脱け出せない。がんばって最低賃金を上げたとしても米欧の賃上げ水準には遠く及ばないどころか、労働時間の短縮や雇用停滞で逆に所得減につながりかねない。

デジタル化やリスキリング(学び直し人材投資)などの成長戦略が見えず、生産性向上も期待できない。アベノミクスを総括することもできず、岸田首相が打ち出す「新しい資本主義」もさっぱりその全体像が見えない。金融引き締めに動けない日銀と同じく、日本政府もまたデフレ脱却に向けて動けずにいる。 

向こう3年間、国政選挙の予定がない日本。動きがない岸田政権はたとえ支持率を維持できても、投機筋にとっては魅力的な日本売りの材料に満ちているのだ。

文/金俊行  写真/shutterstock