「オリンピックに出たいんです」
リュージュは人工的に氷を削って作ったコースを滑るもの。ナチュラルリュージュは、その名前の通り、スキー場や山道に積もった雪を圧雪して、水を撒き、自然に凍らせたコースを滑る。木ぞり文化が残るヨーロッパ北部では盛んで、レッドブルなどの大手企業がスポンサーについている。
しかし、日本ではまだ未知のスポーツ。髙山も今、競技普及のため体験会で教えたりもしている。ただ、「海外遠征の予定もあったのですが、コロナで中止になって」と思うように進まない現状がある。
日本のソリ競技の連盟に支援のお願いに行くと門前払いされた。なので国際試合に出場するためには、海外の代表チームの一員としてエントリーしなくてはならない。世界(国際連盟)から「五輪競技に」と後押しされながら、国内では活動もままならないという不思議な構図。
道具も自費購入だ。国内では作れないため、海外(イタリア)から自分のサイズのソリを購入し、練習も試合も一緒くたで使っている。練習は、北海道の奥地にある人通りの少ない山道を、警察や町役場と交渉して道路を封鎖してもらい、貸し切り状態にして行う。
一緒に活動してきた選手が『木ぞり協会』を立ち上げ、木ぞりを輸入していろんなスキー場で滑るという活動をしながら、同時進行でリュージュの体験会や普及活動を行うこともある。
「前途は……多難ですね。ボブスレーに始まり、スケルトン、リュージュと、色々な意味で滑りまくってます。でも、楽しいです。40歳過ぎて何やってるんだろうな、って思うこともありますけどね」
そう言って明るく笑うが、大きな目標がある。
「オリンピックに出たいんです。50歳で行きたいんですよ。その後は若い選手を育てていって、ソリ界を、今よりもっとまともにしたいですね。そこまでは自分が率先してやって、続く若い選手が出て来たら、その子たちが競技者として頑張っていけるような組織づくりがしたいんです」
髙山は真顔で言う。そんな忙しい日々の中、髙山はもうひとつの未知の競技と出会う。
取材・文/矢崎良一 写真提供/髙山樹里 小川みどり 矢崎良一