「てやんでえ、このやろう」という江戸っ子の意地

「10年くらい前からラジオでも訪問先に年寄りがいればその土地の戦争体験を聞くように意識しているよ。しゃべらない人が多いし、今ある記録が間違ってることもあるんだよ。それに、大きいことのほうが喧伝されるだろう。東京大空襲にしたって、1945年3月10日の10万人という死傷者があまりに多すぎて、2番目の死傷者を出した5月24日の空襲が語られなくなる。襲撃に来た航空機の数は一番多かったのにな。それに対する『てやんでえ、このやろう』っていう江戸っ子の意地もあるな」

「涙ながらに語っても若者は聞かないんだ」毒蝮三太夫の戦争を語り継ぐ意思と工夫_5
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毒蝮さんといえば、1969年から続くラジオ『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』(TBSラジオ)。町のお店や工場などに中継で赴き、集まった近隣住民と話をし、ラジオでかける音楽のリクエストを聞くというものだ。生中継で負担も大きいが、今でも月に1回レギュラー放送している。

「俺たちは全体主義、国粋主義という間違いを国が犯したことを知ったわけだ。大きいことは喧伝(けんでん)されやすいし、都合のいいことを選んで喧伝される場合もあるよ。だから、俺は聞いていくんだな。西郷隆盛と勝海舟を比較しても似たような話があるよ。西郷隆盛やなんかは戦争を広げた側で、最後になだめたのは勝海舟で、さっき言ったような顔役、仲裁者。勝海舟っていうのは大変な立役者だけど、あんまり目立ってないんだな。江戸っ子だからだね。最後の将軍である徳川慶喜も、批判は多いけど戦いを止めた人物だ。そういう人が今、出てきてほしいね」

戦争は人災だから防げるはずなのだ、と毒蝮さんは語る。

「円谷英二監督が子どもに『戦争が起きたらどうしてウルトラマンが助けに行かないのか』と問われたときに、『本当はウルトラマンはいないんだから人間同士で地球を守らなきゃいけないんだ』と言ってたんだ。それなのに、地球を地球人同士で壊してる。他の星の人から見たら馬鹿なことをやっていると思うだろうよ。地球は一番いい環境の星だろう。土星や月の写真を見てもなんにもないじゃねぇか、キャバレーもなんにもねぇ(笑)。それを壊してるんだ、言ってみれば自殺行為をしているんだ。自殺行為をしているんだということに気付いてほしいね」

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取材・文/宿無の翁
撮影/吉楽洋平