九回裏109点差!! 野球マンガ史上最大の“逆境”

⑦全力学園 VS 日の出商業(『逆境ナイン』小学館・徳間書店)

どんな逆境にも負けない男・不屈闘志が、ついに辿り着いた地区予選決勝。相手は強豪・日の出商業。試合途中で気絶してしまった不屈が目覚めたとき、試合は何と九回裏! しかも得点は3対112。じつに109点差である! 

おそらく高校野球マンガ史上最大の逆境! 果たして、不屈は乗り越えることができるのか!? アホらしい展開にバカらしい理屈を織り交ぜつつ、なぜか最後は強引に納得させてしまう作者・島本和彦マジックの真骨頂ここにあり!

「九回裏で109点差」というだけで、もう誰もが読まずにいられない。ツッコんだら負けだ。結末をその目に焼きつけろ!

雪辱を忘れず、全力を尽くす姿もザ・高校野球!

⑧朝霧 VS 滝山(『やったろうじゃん!!』小学館)

かつて練習試合で滝山にまったく歯が立たず、苦い思いをさせられた朝霧。その雪辱を果たす場面が、埼玉県予選の準決勝でやってきた。立ち上がりに滝山のエース・工藤へ先制攻撃を仕掛けるため、朝霧の喜多条順は打撃力のある選手を上位にズラリと並べる。これが功を奏して流れを引き寄せるも、滝山が意地の反撃。勝負は1点を争う攻防となっていく。

朝霧のエース・江崎は、はっきり言ってチートすぎるところがあるが、この試合では苦渋を舐めるシーンもあり、プレーにもひと際、熱気がこもっている。試合後半から決着に至るまでの流れは、作者・原秀則の冴えわたる技量を感じずにはいられない展開で、炎天下の熱戦を見事に表現している。

第三野球部の最大ライバルは、この男をおいていない

⑨桜 VS 銚子工業(『名門!第三野球部』講談社)

千葉県予選決勝。雑草軍団・第三野球部の前に立ちはだかるのは、檜あすなろをライバルと認める天才投手・桑本聡。彼は常に“高い壁”として第三野球部の前に立ちはだかっていた。最初は練習試合、同じ年の予選準決勝、翌年に再びの練習試合、そしてこの予選決勝……。

桑本は戦いを経るごとに、作中屈指の人気キャラクターとなっていった。檜あすなろと第三野球部のスゴさを素直に認め、自らも肉体改造を行ってパワーアップ。超高校級のカーブに加え、強力なストレートも身に付けた。

彼の大きな体と、尊大な「オレ様っぷり」は、主人公・あすなろの小さな体と、地道な「粘り強さ」との対比になっている。この予選決勝は、そんな正反対の2人が高校時代に集大成を迎えたという点で意味深い。

高校編の後は飛翔編へと続き、この2人がますます活躍。桑本に至っては、ほとんど主人公と変わらない扱いになっている。合わせて読んでもらいたい。

“男の戦い”が野球のワクを超えてバーストしていく!

⑩桐湘 VS 蔡理(『錻力のアーチスト』秋田書店) 

記憶に残る熱闘! 高校野球マンガ「あの地区大会決勝がスゴかった!」10選_3
Ⓒ細川雅巳(秋田書店)2014
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公立校の雄・桐湘と、優勝候補の一角・蔡理による神奈川県大会準決勝。圧倒的な筋肉で相手を打ち砕く桐湘の四番・弐識敏と、マネージャーへの愛のために投げる蔡理のエース・蛮堂睦。どちらも人の話を聞かない変態であり、プレーも強引。特に蛮堂睦は、投げるたびにマネージャーへの愛の言葉を叫び、ボールは炎となって打者を熱風に包む(注・作画上の演出です)。

その風貌と言葉遣いは、「北斗の拳」のラオウそのもの。また、彼と弐識敏が対決した際は、なぜか2人とも上半身がハダカになっており、普通に殴り合っている(注・作画上の演出です)。今回の「熱闘」という言葉に、ある意味、これほど当てはまる対戦はあるまい。

文/ツクイヨシヒサ