60代後半でベンチャー企業の顧問

次はゲームの開発会社を立ち上げた若い起業家から聞いた話です。

あるときアメリカの会社から、彼が開発したゲームの販売契約を結びたいというメールが届きました。はじめてのことでびっくりした彼は、どうしたらいいかわからず、海外企業との契約を専門とする法律事務所に相談しましたが、目の玉が飛び出るような料金を提示されて驚愕します。だからといってせっかくの機会をあきらめる気にもなれず、藁をもつかむ思いでクラウドソーシングのサイトに登録してみたといいます。

クラウドソーシングというのは、ネットを通じて仕事を仲介するサービスで、ふつうはちょっとしたアルバイト業務に使われるので、ほとんど期待していませんでした。

ところがその日のうちに、「私がやってもいいですよ」というひとが現われました。あまりに軽いノリなので、ほんとうに専門的な法律の知識があるのか半信半疑のまま資料を送ったところ、3日後には、先方から提示された契約のどの条項の修正を求めるべきかという詳細なアドバイスと、こちらが提示する英文の契約書のドラフトが送られてきました。しかもその報酬はたった3万円でした。

若い起業家はびっくりして、住所を聞いて会いにいったといいます。東京郊外の質素な家に暮らしている60代後半の男性でしたが、話を聞いて事情がわかりました。大手電機メーカーの法務部で長年働いていて、何百件もの海外企業との契約を扱ってきたというのです。