「年をとったら使い捨て」はもう終わり

彼女にしてみたら、自分の子どもやその友だちの相手をするのと同じ感覚で、若手社員の方も母親から注意されるようなものなので、上司の指導や叱責とはちがって素直にいうことを聞けるのです。

こうして若手社員の世話をしていると、こんどは新任の管理職が彼女のところに仕事のことを聞きにくるようになりました。日本の会社は社員を頻繁に異動・転動させるので、まったく畑違いのところに送られて戸惑うことは珍しくありません。部下に教えを乞うのは抵抗がありますが、長く勤めている非正規の女性(それもずっと年上)なら、妙なプライドを捨てて「わからないから教えてください」といえるのです。

こうして5年ほど経つうちに、その職場は彼女なしには回らなくなりました。そして、これは私もほんとうに驚いたのですが、一部上場の大手教育会社が、55歳の非正規の彼女に対して「正社員になってくれないか」といってきたのだそうです。彼女は、「正社員はヘンな責任があるし、休みを自由にとれないから面倒くさい」とこの提案を断ったそうですが。

それでも彼女は、いまも契約社員の最高ランクの時給で働いています。時給はだいたい2500円から3000円くらいでしょうから、フルタイムで働けば年収500万円です。仮に週に3日ほどでも年収200万円から300万円にはなりますから、15年働いたことですでに3000万〜4500万円の「超過収入」を稼いだことになります。彼女は現在60代半ばですが、「70歳までは働きたい」といっているので、生涯収入は5000万円を超えるでしょう。

人手不足が深刻化する日本では、「年をとったら使い捨て」なんてことはもうできなくなりました。そこそこの能力と気配りができれば、50歳まで一度も働いた経験のない女性でもじゅうぶん人的資本を開花させることができるのです。