最悪の結末を迎えた東西レーベル同士の抗争

この映画を理解するには、ふたつの出来事を知る必要がある。そのひとつが、1990年代のアメリカHIPHOP界で起きた東西抗争だ。

「HIPHOPには“ビーフ”っていう文化があるんです。対立する相手をディスする楽曲を発表し合って挑発することなんですけど、自分がやっているMCバトルもこれが起源。“俺が地元や街の代表だ”みたいなことを歌うことも多いので、そうすると、どうしても他の地域の悪口を言ったり、他のグループをこき下ろすことになるんですね。邦楽のHIPHOPにもレペゼンっていう用語がありますが(代表する、象徴するという意味の“represent”が由来)、金と女と見栄が絡んでくれば、なおさらその表現は過激になる。結構、やっていることは幼稚なんです(笑)」

こうしたビーフの加熱とともに、1990年代のアメリカでは、2パックが所属する西海岸のデス・ロウ・レコードと、ビギーが所属する東海岸のバッド・ボーイ・レコードが対立した。そもそもふたりは共にNY出身で、元は友人同士。ところが1994年に2パックが何者かに襲われる銃撃事件が起き、バッド・ボーイ・レコードの陰謀ではないかと疑ったことで関係が悪化。さらにデス・ロウ・レコードに2パックが所属したことから、東西レーベル同士の抗争にエスカレートし、最悪の結末を迎えることとなった。

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ドキュメンタリー映画『ビギー&トゥパック』より。左からビギー、2パック
Shutterstock/アフロ

「商業的に成功したラッパーふたりが亡くなってしまった出来事によって、ビーフの仕方を見直さなきゃいけないねっていう契機になった事件です。ふたりの曲はいまだにクラブでかかりまくるくらい名曲が多くて、2パックだったら『Me Against the World』のアルバムの中の『Dear Mama』という曲がいいし、ビギーのアルバム『レディ・トゥ・ダイ』の曲はどれもめっちゃ好きっす。それに『ノートリアス・B.I.G.』(2009)とか『オール・アイズ・オン・ミー』(2017)とか、ふたりの伝記映画も作られているので、関連作品を掘るのも面白いかもしれないです。ビギーを演じた俳優がかっこよすぎたり、2パックを演じた俳優が妙に野暮ったかったりするのも含めて、ツッコミどころもあるんですけど(笑)」