朝里樹が読み解く、八千代とBさんの母の共通点とは

この、片田舎に伝わる不可解な儀式にまつわる都市伝説を、朝里さんはこう評す。

「棒に立てかけられた髪、鏡台の中にある半紙、そして鏡台の中身を見て狂ってしまう子どもなど、廃墟探訪に来た子どもたちに不条理な恐怖が降りかかる様が実にスリリングです。八千代にまつわるストーリーでは、子どもたちが遭遇した呪いの正体が描かれていますが、母から娘へと受け継がれていく儀式の内容は非常に凄惨……。長い間自らの子どもを犠牲にし続けてきた、という歪んだ欲望が垣間見えるのがおぞましいです。

そして、これは少ない描写からの推測ですが、八千代は、子供を犠牲にして自分だけ“楽園”へ向かおうとする悪しき風習に対し、死後も娘を守ろうとしたのではないでしょうか。だからこそ、元の儀式にはなかったと思われる“手首を切って子供の手を握り、自分も娘と同じく頭皮を剥がす”という行為を行ったのでしょう。そして、Bさんの母親も娘を守るために、おそらくはこの八千代の決死の行動をなぞったと思われる描写が胸に迫りますね。

時代を超えてもなお、あの家に存在し続けていた儀式の呪い。娘を守ろうとした八千代の聖域とも言える場所に、土足で踏み込んでしまったがために、八千代の悲劇が繰り返されてしまうという、なんともやるせない恐ろしさと悲しさに満ちた秀逸な都市伝説だと思います」

この話をあなたがどう捉えるのかは自由だ。だが、仮に「本当かも……」と思ったとき、世界は恐ろしくも魅力的に輝きだす。都市伝説の面白さとは、その“虚実のあわい”にあるのだと思う。