自分の髪の毛をしゃぶり続ける呪いにかかるBさん
鏡台には3段の引き出しがついており、1、2段目の引き出しにはそれぞれ「禁后」と書かれた半紙が入っていました。あまりの不気味さに彼らはすぐに引き返そうとしたのですが、女のコのメンバーBさんが、ひょんなことから3段目、つまり一番下の引き出しを開けてしまいました。
その瞬間、そのBさんは引き出しの中を見つめたまま動かなくなってしまいました。そして、しばらくして「ガンッ!」と乱暴に引き出しを閉めると、肩より長かった自分の髪を鷲掴みにし、むしゃむしゃとしゃぶりだしたのです。
「おい、なにしてんだよ!」
制止してもBさんは夢中で髪をしゃぶり続けます。慌てた男子たちは彼女を抱え、Aさんたちは急いで廃墟を後にしたのでした。
空き家から一番近かったAさんの家に駆け込みます。Bさんの奇行を見たAさんの母親は、すぐに彼らのこの日何をしていたのかを察して𠮟りつけると、それぞれの親を電話で呼び出しました。
続々と集まってくる親に、子どもたちは言葉を詰まらせながら、鏡台や半紙といったパンドラで見た出来事を語りました。Bさんのお母さんは、涙で歪んだ顔でポツリと呟きます。
「3段目の引き出しを見たのは、うちの子だけ……?」
Aさんたちがおずおずと頷くと、Bさんの母親は「止めなさいよ! 友だちでしょう!?」と叫びだしました。そして、ある男のコのメンバーの父親からこんな話を聞かされたのでした。
「パンドラ」という家は親世代が子どものころからそこに建っていたそうです。そして、もとから人は住んでおらず、あの鏡台と立てかけられた黒髪のためだけに建てられた家だったのだとか。そしてAさんたちにこう告げます。
「Bちゃんのことはもう忘れなさい。もうお前たちとは会えない。それに……お前たちはあの子のお母さんから、たぶん一生恨まれ続ける。だから、もう関わらないようにしなさい」
その後、パンドラは住民たちによって中には誰も入れないような対策が取られたそうです。Bさん一家はしばらくしてどこかへ引っ越していき、Aさんと他のメンバーも徐々に疎遠となり、中学卒業後は会うこともなくなっていました。
それから数年が経ったある日、Aさんの母のもとに、Bさんの母から手紙が届きました。どのようなことが書かれていたか、内容はAさんに教えてくれませんでしたが、母はこんな意味深なことをAさんに言いました。
「母親は、最後まで子どものために選択肢を持っているのよ。ああなったのがあんただったら、私もそうしたと思うわ。それが間違っていてもね」
そう言われたAさんの脳裏には、Bさんの母親が我が子を救うために、“自らの危険すら顧みない何らかの対処”をしたのではないか、そんな考えがよぎったそうです。