劇場の観客たちが一斉に大きなため息に沈む瞬間も何度か経験しました。それは私が質問に答えて今回の参院選挙の行方に触れ、「戦後、見たこともない政治風景になるかもしれない」と語ったときです。
これは、私の言葉ではありません。今回の国政選挙を分析する共同通信政治部デスクが加盟社の記者たちとの会議の場で選挙公示日前に発言したものです。
情勢分析から今選挙では野党第一党が入れ替わる可能性が高く、もし仮にそうなれば、保守政権より右に振れた政党が野党第一党に躍り出て、戦後初の政治状況になると言うのです。与党と野党のバランスが一気に崩れ、国政がブレーキなく走る車になってしまうかもしれません。
保守政治を研究してきた70代の政治学者は「もう先が読めない」と嘆いて、こう述べました。
「どん底に堕ちるとこまで堕ちないと日本人は気がつかないのでしょうか。前の戦争から70年以上経過し、戦争を経験した人たちも僅かしか残っていない中、大日本帝国による大東亜戦争を賛美したがる無知な人々が増えた結果がこの現在の状況です」
この国は明らかに右傾化している。政治学者として事態を深刻に受け止めているのです。
私が住んでいる地域では、選挙ポスターの掲示板で一番上に貼られていたのが参政党の候補者のものです。これも初めて目にした時は度肝を抜かれました。
SNSを武器に既存政党を否定し「ゼロからつくる」と訴える新しい政党ですが、代表者は元吹田市議会議員だった人物で、「イシキカイカク」という会社を運営しています。なぜこの人物を私が知ったかと言えば、インターネット上で沖縄の新聞社や県民に対し「反日史観」「左翼活動家が反基地運動をしている」とさかんに拡散する人物として注目したからです。
「イシキカイカク」セミナーでは、日本を賛美する独自の歴史観を掲げて学習会を繰り返していました。この政党も自民党よりはるか右へ振れていると言ってよいでしょう。ウクライナで戦争が続く中にあって、分かりやすいカルト的な言説で人びとの人気を呼び込む傾向は世界の潮流のようです。
異例のヒット映画『教育と愛国』の監督が、参院選を前に伝えたいこと
5月に公開された、政治と教育の関係を問うドキュメンタリー『教育と愛国』が異例の大ヒットとなっている。大阪・毎日放送の(MBS)の名物ディレクターとしても知られる監督の斉加尚代氏は、この映画とともに全国を巡る中で何を感じたのか。そして参院選投開票を前に今、最も伝えたいこととは。
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なぜまた橋下徹なのか