料理を楽しんでくれたらそれが嬉しい
日本で好きな料理を尋ねると、やはり寿司だと顔をほころばせてくれた。
「地元では海の魚はあまり手に入らないんです。日本ではフレッシュな魚が食べられると父が喜んでいます」
またナリースニキの食べられ方と比較すると日本のクレープは「違う!」と感じるようで、「シンプルな食べ方も広がってほしいですね」と語る。
食事を楽しむ一方、避難先で新しい商売を展開するということに万感の思いがあるはずだ。アントンさんは「自分の両親は故郷に残っている。苦しい気持ちしかない」と言葉少なに話す。
「私たちは常に銃声が聞こえる地域から来たけど、悪いニュースにばかりフォーカスせず料理を楽しんでくれたらそれが嬉しい」とエウゲニアさん。それを受けてアントンさんも、「ウクライナ料理で気になるものがあったら、メニューに試してみるからメッセージして」と話してくれた。
食文化に国境があるわけではない。世界中に餃子のようなものがあるし、ボグラーチにしてもスロヴェニアやハンガリーと共通する料理だ。同じものが広範囲で食べられる一方で、家庭ごとの小さな個性も生まれる。美味しいものを分かち合うことが少しでも心に平穏をもたらせばと願う。
取材・文・撮影/宿無の翁
編集/一ノ瀬 伸