都会暮らしと田舎暮らしで表情も確実に変わる
「仕事がバリバリできる会社の先輩がいて、人望も厚く、誰もがその人の出世を信じて疑わなかったんですが…。
その先輩が、テレワークが増えたのを機に一家で地方に引越したんです。それ以降、全身から発散されていた覇気のようなオーラが徐々に薄れていって、仕事ぶりも人並みになりました。本人は『のんびり暮らせていい。地方移住して正解だった』と話し、家族や移住先のコミュニティで過ごす時間に重きを置いていて、非常に充実している様子なんですけど。
なかには、『役員クラスになるのも現実的な線だったのに』と先輩の変化を惜しむ人もいました。僕は、出世にとらわれない先輩の生き様を見て『そういう生き方もあるのだな』と妙に納得しましたが、会社員として正しかったのかどうかは僕にはわかりません」(32歳・出版社勤務・男性)
「のんびり」はそれを求める人にとってはこの上ないメリットだが、その価値観を持っていない人からするとデメリットに見えることがある。上記のエピソードでいえば、移住した本人が満足しているのだからそれはまごうことなき成功例である。だが仕事や「偉くなる」ということにプライオリティを置いている価値観の持ち主からは、「地方移住で腑抜けてしまった」といった批評がつくこともある。
筆者の場合、「のんびり」のメリット・デメリットを半々ずつ受け取っているような手応えである。どこに行くにも人混みとは無縁で、ゆったり伸びやかに過ごせている。反面、のんびり過ごしすぎていることに若干の焦りを感じてもいる。「もう少しバリッと働いた方がいいのではないか」と思えてしまうのである。
先日久しぶりにまじまじと鏡で自分の顔を見て驚いた。目尻が移住前に比べてかなり下がっていて顔つきが変わっていたのである。しかし、とある用事で渋谷に行く機会があり、街を歩いていると「負けないぞ」という気持ちが唐突に湧出してきて、自覚できるほど目尻がキュッと上がる。「そういえば昔はいつもこんな気持だった」と、思いがけぬ闘争心に内心やや興奮し、地方の住処に戻ればまた目尻がプシューと下がっていくのである。
田舎暮らしは競争意識や“ギラつき”のようなものを削ぎ落としていく可能性がある。まだギラついていたい人は注意されたい。