タイピング数の低下で本当に生産性は下がっているのか?

在宅勤務の是非については、3つの要素に切り分けて考える必要がある。

1つ目は生産効率の向上。2つ目が従業員のエンゲージメントの維持・向上。3つ目がイノベーションの創出だ。この論争は3つの視点が混在すると噛み合わなくなるため、整理する必要があるのだ。

生産効率については、GMOの熊谷正寿代表のXにて「在宅で生産性が上がる方もいる。否定しない」とするいっぽう、「データ上時間当りのPCタイピング数は確実に減少。トータルで在宅勤務はマイナス」とコメントした。

GMOの熊谷正寿代表(写真/共同通信社)
GMOの熊谷正寿代表(写真/共同通信社)
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経営者や管理職からこうした意見が出てくる背景には、在宅勤務が“サボり”の温床になっているとの疑念が払しょくできないことがあるのではないだろうか。実際、業務管理システムを提供するSMBの「リモートワークの実態」調査では、在宅勤務経験がある従業員の約8割はサボった経験があるとの回答が出ている。

大手ECサイトを見ると、自動でマウスを動かして仕事をするふりを続けるツールまでもが販売されている有様だ。

しかし、生成AIの浸透によって手を動かす時間や数が少なくなっているという時代の変化もある。熊谷氏はタイピングの数が減ったと主張するが、熊谷氏自身が生成AIを使って2か月で10万行のコードを書いてアプリを作ったことが話題になった。

皮肉にも、キーボードはほぼ使わず、ほとんどを音声入力で仕上げたのだという。タイピング数の減少は、必ずしも生産性の低下を意味しないことを自ら体現した形とも言える。

経営者や管理職が手を動かす指標に気を取られてしまうと、AIによって徹底的に業務効率を上げている優秀な従業員を正当に評価できなくなる恐れもある。

生産性に関しては、ニッセイ基礎研究所が第三者の視点で調査を行なっており、在宅勤務による優位性には否定的なデータが出ている(「通勤時間で異なる在宅勤務頻度と在宅勤務の生産性評価の関連」)。在宅勤務の頻度と生産性の高さを調査したもので、毎日在宅勤務している人が生産性向上を実感している割合は36%。月1~週1日在宅勤務の人が33%だ。明確な差は表れていない。つまり、在宅勤務を廃止しても生産性は大きく変化しない可能性が高い。