「押してくれよ俺を」芸人の心からの叫び

2つ目は、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)。1月21日に放送された、生放送での高野正成(きしたかの)の高飛び込みチャレンジである。

発端は昨年11月放送の企画だった。10メートルの飛び込み台から紙飛行機を投げ、自らプールに飛び込んで紙飛行機をキャッチする番組オリジナル競技。それに参加していた高野は、最後まで一度も飛び込めずにチャレンジを終えていた。

「押してくれよ俺を」

時代的に飛び込みを無理強いするのはあまりよくないという周囲の芸人たちの声に、高野はそう漏らしていた。そこで今回改めて、生放送の舞台が用意されたわけだ。

緊急生放送となったまさかの企画(『水曜日のダウンタウン』公式SNSより)
緊急生放送となったまさかの企画(『水曜日のダウンタウン』公式SNSより)

ただ、高野は今回もなかなか飛び込めない。前回共にチャレンジした芸人らが応援にかけつけるも、やはり飛べない。飛び込み台の端までは行くものの、あと一歩が踏み出せない。

そんな何かが起きそうで起きない様子がずっと続く。画面はほとんど変わらず、小太りの中年男性が飛び込み台の上で逡巡を繰り返しているだけだ。しかし、画面からなぜか目が離せない。

そういえば、『大悟の芸人領収書』で品川祐(品川庄司)はこう語っていた。

「ルールがある競技はそれはそれでおもしろいじゃん。テレビのルールが厳しくなればなるほど、そのなかで何をやるかっていうおもしろはまだテレビの中にもある」

それこそ出川的な「押すなよ」が「押せ」を意味するお約束(ルール)が成立し難い時代。そこで今回、番組側が高野の背中を「押す」ために用意したのが生放送だった。

約60分の放送時間という制限(ルール)のなかに高野を投げ込み、その一部始終を実況中継した。テレビの今日的な制約を、テレビならではの方法で乗り越えていた。

テレビの放送時間が生む緊張感は見る者を引きつけ、高野の人間としてのおもしろさをさらに引き出す。自由のなかでは埋もれてしまう癖や弱さや勇気が、制約のなかで輪郭を持ち始める。時間というルールがあるテレビならではの、おもしろさを感じる企画だった。