人気店がわずか1年3カ月で閉店

筆者は「札幌 六坊」をオープン時に取材したが、同店は店主の並々ならぬ意気込みで誕生した店だった。

「渡なべ」の限定営業で提供していた「札幌ブラック」は、提供するたびに固定ファンがつく人気メニューへと成長。「これは一つのブランドとして成立する」と確信し、満を持して専門店として独立させたのが「札幌 六坊」だった。

札幌ラーメンの中華鍋での「あおり製法」を軸に据えながら、味噌だけでなく醤油や塩にも磨きをかける。なかでも札幌ブラックは、濃厚な旨味と香ばしさを兼ね備えた唯一無二の一杯として高い評価を集めた。

雑誌やテレビ、WEBメディアでも数多く紹介され、評判は上々。私自身も「札幌ラーメンの新しいスタンダードになるのでは」と感じたほど完成度の高い店だった。

だからこそ、今回の閉店は「なぜ」という疑問しか浮かばなかった。閉店理由を聞いて、さらに驚かされた。原因は、味でも売上でもなかった。

「油ですよ」

店主の渡辺樹庵さんはそう言い切った。

「札幌 六坊」店主の渡辺樹庵さん
「札幌 六坊」店主の渡辺樹庵さん
すべての画像を見る

札幌ラーメン最大の特徴のひとつは、中華鍋でラードを高温に熱し、野菜を豪快に炒め、そこへスープを合わせる独特の調理法にある。あの香ばしさも、熱々のスープも、この工程があってこそ生まれる。

しかし、その代償として大量の油煙が発生する。「渡なべ」で札幌ブラックを限定提供していた頃には気付かなかった。

「限定営業は1カ月くらいだったので、そこまで分からなかったんです」

店の壁が異様にベタつく。掃除をしても、すぐ油でヌルヌルになる。

「オープンして1カ月ぐらいで、スタッフから『業者を入れて掃除してほしい』と言われました。毎日掃除しても追いつかない、と」

そこで月2回、専門業者による清掃を導入した。しかし、それでも状況は改善しなかった。

決定的だったのは、客席の換気扇だった。営業中、換気扇の上から黒い油が「ボトッ」と落ちてきた。

「『何これ!?』って思ってスタッフに聞いたら、『油がたまって落ちてくるんです』って。もしお客さんに当たったら最悪じゃないですか」