『愛を語るより口づけをかわそう』に隠された上杉昇の静かな抵抗
当時、WANDSのシングル曲のほとんどは事務所側に用意された楽曲が採用されていたが、作詞はデビュー時から一貫して上杉に任せてもらえていた。
「とはいえ好き勝手なんでも書いていいわけじゃありませんでした。曲はさわやかなメロディーラインだったりしましたし、最初からCMタイアップなんかが決まっていて、こういうフレーズを入れてほしいっていう指示がある曲もありましたし。
それに詞を書くのは僕でも事務所のチェックが入るから、ハードな表現とか曲に合わない言葉だとすぐにNGになるんです。
でも作詞でウソは書きたくない。自分の想ってないことを詞にすることはできない。だから事務所とのせめぎ合いの戦いですよね」
それを象徴するのが5枚目のシングル『愛を語るより口づけをかわそう』だったという。
良くも悪くも当時のWANDSを代表するようなアップテンポで爽快感のある曲調だった。
「『愛を語るより口づけをかわそう』の歌詞を読んでもらえればわかると思うんですけど、曲に合わせた詞にはしてありますが、要するに、きれいごとの愛の言葉なんていらないからセックスしようっていう歌なんですよ(笑)。
だけど、そんなストレートな歌詞にしたらNGになるから、丁寧に表現するというか、『口づけ』にとどめてあるんです。
『キス』ではなく『口づけ』という表現で文学的なニュアンスを出したのもこだわりですね。
作詞ではそうやって自分なりに抵抗というか、戦っていたという感覚がありました」
だが皮肉にも『愛を語るより口づけをかわそう』もミリオンヒットとなり、WANDSはますます人気と知名度を獲得していくことに。
WANDS人気の高まりに比例するように上杉の精神的な負荷は増していく。
そして、“WANDSの代名詞”とも言えるあの名曲の詞に、上杉はある決意を込める。
「自分の音楽を出していくために戦っていたんですよね。だから8枚目のシングル『世界が終るまでは…』には、『世界』『終る』という言葉を入れることを決めていました。
この曲で、それまでのWANDSと決別するという意味を込めたんです。
僕らWANDSは中山美穂さんとコラボした『世界中の誰よりきっと』で名前が世に知れ渡ったので、『世界』という共通のフレーズを使って、そしてこれまでのWANDSに区切りをつけるために『終る』って言葉を入れて。そういう覚悟で作った歌だったんですよ。
この曲はなんていうか、詞を書いてるときから“見えて”いたんですよね。
この歌が世間で流行るところが。たとえばガソリンスタンドの有線から流れて、たくさんの人がこの曲を聴いてくれるって、確信めいたものがあったのを覚えてます」













