「主文、被告人を罰金15万円に処する」

2017年4月の初公判。私たちは彫師の無罪を主張した。タトゥーを施術する行為には「治療目的」がなく、医療や保健指導とは関係がない。医師でなければできない「医行為」には当たらない。彫師に医師免許を要求することは、彫師の職業選択の自由や表現の自由を侵害することになる。

日本におけるタトゥーの歴史は古い。縄文時代の土偶の顔にはタトゥーと考えられる線が刻まれ、弥生時代に記された『魏志倭人伝』にも、当時の日本人は顔や身体にタトゥーを施していたとの記録がある。

江戸時代には、世界でも類を見ない美しい装飾に発展した。南西諸島には、女性の手の甲に深青色の文様を施す「針突」と呼ばれる風習があった。北海道のアイヌ民族にも、女性が結婚や出産などの通過儀礼において皮膚に文様を施す文化があった。こうした長い歴史において、タトゥーを施すことが医療的行為だった事実はない。

明治時代には、道徳や秩序維持の観点からタトゥーの施術を禁止する条例があったが、1948年(昭和23年)、軽犯罪法に引き継がれる際に削除された。道徳的にも、刑罰で規制するような行為ではないと考えられたのだ。

前述した、厚労省が「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」は「医行為」だとの通達を出したのは、アートメイクに関する苦情や健康被害が急増したことを受けてのものだった。しかし、国民生活センターに寄せられた消費者からの膨大な情報を調べてみても、タトゥーの施術に関する苦情や健康被害はほとんどなかった。

被告人である彫師はもちろん、実際にタトゥーを施術してもらった客たちも法廷で証言をした。海外から輸入した使い捨ての針や器具、安全性が確認されたインクを用いて施術をしていること、施術による健康被害が生じていないこと、そして、客たちは皆、被告人である彫師による「作品」に心から満足していること。

【写真】被告人となった彫師の増田太輝さん 写真/神宮巨樹
【写真】被告人となった彫師の増田太輝さん 写真/神宮巨樹

「イレズミ」の研究者や皮膚科の医師、医師法の研究者は、それぞれの専門的知見から、タトゥーを施術する行為を「医行為」と考えることはできないと証言した。

8回の公判を重ねて弁論が終結した時には、裁判を傍聴していた誰もが「無罪」の心証を持ったに違いない。判決は大法廷で言い渡されることになり、多くのメディアが詰めかけた。しかし――。

「主文、被告人を罰金15万円に処する」

耳を疑った。有罪判決だった。法廷が静まり返る。

「本件行為(入れ墨を施術する行為)は、保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為である」

「入れ墨の施術に当たり、その危険性を十分に理解し、適切な判断や対応を行うためには、医学的知識及び技能が必要不可欠である」

だから医師免許が必要だというのだ。彫師の職業選択の自由や表現の自由についても、あっさり退けた。法廷は、被告人、そして、満席の傍聴席を埋める彫師たちの落胆に包まれていた。私は怒りに震えながら判決を聴いていた。あり得ない。非常識だ。絶対にくつがえさなくてはならない。即日控訴した。