ユニクロVS.ザラ

日本のポスト消費システムの進化形であるユニクロを、ヨーロッパ・ファッションの最先端であるザラと対比して考えてみましょう。

ザラが提供するのは、かつて富裕層だけが独占していた「時間の先行性」という贅沢です。

ザラの服は、それ自体が目的ではなく、パリコレなどのハイエンドな世界観(記号)へ参加するための「チケット」です。

最新の流行をわずか3週間で手に入れられることは、かつての上流階級が持っていた「情報の鮮度」を民主化したことを意味します。

写真/Shutterstock
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ザラの顧客は店内で自分に合うスタイルを「発見」し、自らのセンスで編集します。

これは、ボードリヤールの言う「記号の操作」を楽しむ、能動的で知的な贅沢の形です。「売り切れ御免」の戦略は、手軽な価格でありながら、その瞬間を逃すと手に入らないという「希少性」を演出し、消費体験をドラマチックなものに変えています。

それに対して、ユニクロが提供するのは、かつては高価だった「高品質なベーシック」を誰もが日常的に享受できるという「インフラとしての贅沢」です。

ユニクロは服を自己主張の道具(記号)ではなく、生活を支える高品質な「パーツ(部品)」と定義しました。

カシミヤや高品質なアンダーウェアなど、かつては贅沢品だった素材を「圧倒的低価格」で販売し、「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の底上げ」という贅沢を提供したのです。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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ザラが「飢餓感」を煽るのに対し、ユニクロは「いつでもそこにある」という安心感を提供します。

1シーズンにわたって欠品を許さない徹底した管理は、顧客の「必要なときに買える」という権利を守る、ある種の誠実な贅沢と言えます。

つまりザラは「情報の贅沢(トレンド)」を、ユニクロは「生存の贅沢(インフラ)」を、それぞれ大衆に解放しました。

ザラのファッションでは、トレンドを店側が提示するのに対し、ユニクロのファッションでは、店側が提供する素材をユーザー自身が使いこなすことが可能であり、また必要なのです。

文/坂出 健

『贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか』 (光文社新書)
坂出 健
贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか
2026/4/15
1,100円(税込)
272ページ
ISBN: 978-4334109486
あなたはなぜ割高でも、”実存のドトール”より”演出のスタバ”に行くのか? その秘密はコーヒーの味ではなく、現代資本主義社会という巨大劇場の構造と、そこで踊らされる私たちの欲望にある。砂糖やコーヒーから始まった「贅沢品」(ラグジュアリ)を、ダイアモンドの独占供給、エルメスやLVMHのプレミアム戦略、ユニクロやザラのマーケティングから「7つの大罪」を満たすGAFAまでを1本の線で繋げ、世界を回す贅沢品の本質に迫る。
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