馬がもたらしてくれるもの

「馬はタイムスリップさせてくれる」沖縄の琉球競馬と福島の相馬野馬追が今に伝える馬と人の悠久のヒストリー_4
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星野 今回うかがった久米島では、すごくいい試みをしていました。久米島にも雑草の茂った土地がたくさんあるので、島の人と話をつけて、今月はここ、来月はここというふうに放牧地を貸してもらって、馬を放牧しているんです。馬はむしゃむしゃ、草を食べ放題で、飼料代がかからない。いろいろ試行錯誤した結果、それがいちばん持続性のあるやり方だと気づいたそうです。もちろん、地元の方々との信頼関係があって初めて成立することですが、地産地消の最たるものでした。

他の地域でもそういう取り組みが増えたらいいなと思いました。馬糞はいい肥料になりますし、競走ができなくなった馬でも、出張して草を食べたり、人と触れ合ったりといったお仕事はできるので。そういうことをカジュアルに循環させて、馬がもうちょっと幸せに暮らせるようになったらいいなと思っています。

梅崎 私は乗馬はほとんどやらないのですが、星野さんは経験豊富ですね。世界中で馬に乗っておられる。次はどこに行かれるご予定ですか?

星野 特に決めていませんが、これからも馬には関わり続けたいです。元気なうちに、馬のいるところをもうちょっと訪ねたいなと思いつつ、あまりケガはしたくないかな(笑)。先月も落馬で軽い骨折をしてしまいました。

梅崎 私は馬に第六感のようなものを感じます。なにかを察知して急に立ち止まり、押しても引いても動かない。するとその先に危険があったと、そういった話をよく聞きます。沖縄の馬に限らず。

星野 私もよく、押しても引いても馬がなにもしてくれないことがあります。でもそれはただ、なめられているだけです(笑)。

梅崎 1頭1頭、気性が違いますからね。子どもの頃から叩いてばかりいると、馬も人の言うことを聞かなくなるし、逆に信頼関係ができていればおだやかになる。馬はなで方で決まるとか、馬の気性を見れば飼い主の気性が分かる、とかよく言われます。野馬追に参加される方々はきっと、家族同然に馬をかわいがってるのでしょう。

星野 あと、馬はタイムスリップさせてくれますよね。馬に乗って風景を見ることで、違う時間軸を体験できる。さっきの冊封使の話みたいに、400年ぐらいすぐにさかのぼるじゃないですか。

梅崎 野馬追で考えると、起源は平将門だから1000年ぐらいさかのぼってしまう。それぐらい昔から、馬と人は親密な関係を育ててきたのです。

星野 はい。そこが馬のおもしろいところですね。モータリゼーションがすべて悪いとは思わないけど、これからもう少し、馬と人とのつながりが見直されていってほしいです。

構成/前川仁之 撮影/織田桂子

野馬追で会いましょう 相馬の馬文化と震災後の日常
星野博美
野馬追で会いましょう 相馬の馬文化と震災後の日常
2026/4/17
1,210円(税込)
272ページ
ISBN: 978-4-08-721409-3

海外で土着の馬に乗り、「馬の地」が紡ぐ歴史と人々の営みをたどる旅をしてきた著者は、2021年夏、福島県相馬地方で行われる祭事「相馬野馬追」を初めて訪れた。
馬との暮らしが失われる中、祭りはどのように維持されているのか。日本の馬文化のいまを知りたい──。
浪江町で出会った「平本家」のメンバーは東日本大震災でほぼ全員が被災し、全国に散らばって生活していた。
かれらの語り、一人一人の選択から原発事故の影響がいまだ続く現実が見えてくる。
日本の馬文化の現在地と震災後の日常を描くノンフィクション。

【目次】
まえがき
第一章   二〇二一年相馬野馬追
第二章   標葉郷平本家との出会い
第三章  「野馬追の日に会っている」
第四章   相馬野馬追保存会
第五章   原発からの逃避行
第六章  「私がやってやる」
第七章   二〇二二年相馬野馬追
あとがき

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