フィクサー葛西敬之の影がちらつく
話をもとに戻す。高市内閣における露木の官房副長官就任は、前任の栗生の後継指名である可能性が高いが、それだけが要因でもない。そこには栗生や杉田の後ろ盾になってきた東海旅客鉄道(JR東海)元会長の葛西敬之の存在もちらつく。
葛西については私自身、何度も書いてきたので詳細は拙著『国商 最後のフィクサー葛西敬之』(講談社文庫)に譲るが、国鉄改革三人組と称され、旧国鉄の分割民営化を成し遂げた立役者として運輸業界でその名を知らぬ者はない。
この数年はドル箱の東海道新幹線の利益を使い、リニア中央新幹線の実現に向けて邁進してきたかたわら、安倍政権下で保守タカ派の論客として名を馳せてきた。
日本会議を立ち上げた中心人物であり、靖国神社の崇敬者総代を務めてきた。自らの保守思想と通じる安倍晋三を首相に祭り上げた人物にほかならない。当人は奇しくも安倍が銃撃されるひと月半前の2022年5月、間質性肺炎で82年の人生の幕を閉じた。だが、今もその威光は衰えない。
高市がそんな葛西にすり寄ったのかどうか。そこについては定かではない。しかし少なくとも葛西は生前、安倍を信奉する高市のことを可愛がった。2021年の自民党総裁選に彼女が出馬できたのも、安倍自身というよりむしろ葛西の力添えがあったからではないか、と見る向きがあるほどだ。事実、高市が今も葛西が旗を振ってきた日本会議を頼りにしているのは疑いようがない。
安倍や菅と気脈を通じてきた葛西は長年、霞が関の高級官僚との交わりを大事にしてきた。霞が関人脈におけるキーパーソンが警察庁OBの杉田であり、杉田の後輩である栗生だ。杉田は安倍・菅政権で9年近く官房副長官として官僚たちに睨みをきかし、2021年10月に生まれた岸田内閣では自らの後継官房副長官として栗生を選んだ。
それは杉田や栗生をはじめ警察官僚と気脈を通じる葛西の了解がなければありえない人事といえる。そして栗生は自らの後釜として露木を指名した。霞が関ではそう見られる。
つまり高市自身には露木との接点はないように感じるが、日本会議の葛西やそこに連なる霞が関とのパイプが官邸人事に影響しているといっても過言ではない。現在の日本会議の会長である谷口智彦は、2025年の自民党総裁選で高市を応援したとされる。
日経ビジネスの編集委員から外務省に転じた谷口は、第二次安倍政権時代の内閣審議官や官房参与を歴任し、経産省の佐伯とともに首相のスピーチライターとして活躍した。戦後70年談話を起草したとされ、ことのほか安倍の評価が高かった。
目下の高市政権には、前述した今井と佐伯、さらに谷口の3人が加勢し、アドバイスしているといわれる。結果、2025年の自民党総裁選では、日本会議がフル活動して高市推しをするようになったという。
日本会議の会員が自民党の党員に電話攻勢をしかけ、その数は20万人とも25万人とも伝えられた。自民党員は近年激減して90万人ほどしかいないので、そこまで日本会議がやったとしたら、高市が党員票のトップになれるわけだ。
もともと高市には政策ブレーンがいない。中央官庁から提示される政策についても、公邸にこもって独学で検討するケースが多いとされる。それだけに、外交に長けた谷口は相談相手としてうってつけなのかもしれない。
第二次安倍政権時代に総理の分身と異名をとってきた元経産官僚の今井なども同じだろう。今井が推薦した元経産事務次官の飯田を政策秘書として任命し、執務室に出入りさせているのもその現れといえる。
あるいは内閣広報官を拝命した佐伯も同じような立ち位置なのであろう。そうして総理総裁ポストを射止めた高市早苗は、安倍政権時代の官邸官僚たちに支えられながら、政権をスタートさせた。
しかし、そこには不安材料もあった。一つには彼ら首相と官邸官僚たちとの関係づくりだ。高市本人と彼らとの距離感でいえば、安倍政権時代とはかなり違う。今の高市政権で官邸官僚たちが安倍政権時代ほど首相と一体化しているとは言い難い。ある日本会議の関係者がそのあたりの微妙な接点について明かした。
「3人は高市さんと懇意でもなんでもなかった。たとえば谷口氏はほとんど彼女と面識がなかったらしい。けれど、日本会議の会長を田久保(忠衛)さんから引き継いだあと、組織としてバックアップするよう頼まれたと言っていました」
今井や佐伯も然りである。功罪や善悪を埒外に置けば、安倍政権時代の官邸官僚たちは誰もが「安倍命」で政策に没頭し、官邸の主を支えてきた。高市政権ではそうした熱量をあまり感じない。
加えて、高市政権の生みの親である麻生太郎との人間関係も円滑とは言い難い。はからずも通常国会の衆院冒頭解散では、そのぎくしゃくした政権内部の景色を露呈する羽目になる。













