テレビがテレビだった時代

──若い世代にとって、せいこうさんは『ビットワールド』の人というイメージが強いと思います。『ビットワールド』よりさらに前、せいこうさんが活動を始めた1980年代のテレビって、今の芸人一強の雰囲気とはかなり違っていましたよね。

いとうせいこう(以下同) あの頃くらいまでが「テレビ」だったと、俺は思ってる。もっと以前には青島幸男がいて、ドラマ『いじわるばあさん』とかをやってた。のちに東京都知事になる人だよ? 普通に考えておかしいじゃん。大橋巨泉さんもそう。そもそも巨泉っていう名前が俳号だからね(笑)。

でも俺たちの世代からしたら、それが常識なんだよ。テレビの中に出てくる人たちは、普通の舞台に立ってる芸人とは違う。

けど今は、企画や番組の意図を汲んで動く、いわばADさんみたいな芸人諸氏がいて、アイドルたちもその真似をして……。テレビを成立させるためには必要なんだろうけど、そこからは「変なもの」は生まれにくいよね。今は芸人という入口からじゃないとテレビの世界に入れないようになってる。

もちろん、そのことを自覚してる人が常にそれを壊そうとしているのは伝わるんだけど、それはそれで「巧さ」のほうが出ちゃうじゃん。

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──せいこうさんは、テレビのどんなところに特別さを感じていますか?

テレビって今はバカにされがちだけど、その中には何十年もかけて積み重ねられてきたすごい技術がたくさんあって、みんなが注目しないところにプロフェッショナルな人たちがいる。そこがすごいんだよ。

この間、俺の昔からの知り合いが教えてくれたんだけど、いま、欽ちゃん(萩本欽一)ってどこかのビルの一室で数十人くらいの観客を集めて、アドリブショーみたいなのをやってるんだって。

それもリハーサルのときから何台ものカメラで録りながら、その場にいるスタッフを指差して「ちょっと、そこのあんた」って意見を聞いたりしながら作ってると。「こっちから入ってきたほうが面白いと思うんです」と言われたら、すぐに意見を取り入れて、それででき上がったものを観客に見せるんだって。

その話を聞いたときに、やっぱり萩本さんって相変わらずすげえなあ……って思っちゃってさ。テレビの中でしか生まれなかった鬼みたいな人がいて、テレビの秘密を持ってるんだよね。そういうものをちゃんと見つけて、言語化して、後世につないでいく。それが俺の役割だと思ってる。

自身のポッドキャスト『だいじなケモノ道』では、エンタメを支える裏方にスポットを当てた
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