苫野一徳、岩内章太郎、稲垣みどり『本質観取の教科書 みんなの納得を生み出す対話』を橋爪大三郎さんが読む
「本質観取」とは、その名のとおり、物事の本質を見極めるための、哲学2500年の歴史がつまった思考と対話の方法だ。さまざまな概念や事柄の本質を、参加者は対話を通して言葉に編み上げ合うことで、相互承認の感度を育み、共通了解を見出すコツをつかんでいくことができる。いまこうした「本質観取」のワークショップが全国の保育園、幼稚園、小・中学校、高校、大学、企業、市民グループでも広がりつつあるという。
現在発売中の書籍『本質観取の教科書』はのべ何千人と対話を実践してきた著者三名(苫野一徳、岩内章太郎、稲垣みどり)による教科書のような一冊だ。本記事では、社会学者の橋爪大三郎氏によるこの本の書評をお届けする。
本質観取の教科書 #4
哲学対話マニュアル決定版
「本質観取」は哲学者フッサールの言葉。いかめしいが、本書によると、ことがらの大事なポイントを取り出す共同作業のことらしい。
人間はみな感じ方も理解や意見も違う。でも話し合ってみると共通点がみえてくる。対話してみて、合意点がみつかる場合を体験できるのだ。自信をもって社会を築く原点になる。
本書の第一部は理論編。フッサールの現象学を竹田青嗣氏がどう読み解き、それが哲学対話にどう結びついたのか。中高生にもわかりやすい語り口である。
後半の第二部・実践編が本書の読みどころだ。すぐれた哲学者はみな本質観取の名人だった。コツさえわかればむずかしくない。
0.テーマを決めて、ルールを確認する→
1.問題意識を確認する→
2.具体例を出す→
3.キーワードをみつける→
4.本質を言葉にする→
5.最初の問題や途中の疑問に答える、の順で進める。
ルールは、互いを認め、耳を傾けて、共通了解をさぐり、沈黙を尊重する。安心して話せる場をつくる。対話の実例が豊富なので、理解が進む。
司会(ファシリテーター)の役割も重要だ。参加者と一緒に問題を考える。場を信頼し、無理に議論を引っ張らない。注意点がリストにまとめてあり助かる。
本質観取のほかに、P4C、SDという対話メソッドもあるという。
P4Cは、子どものための哲学対話。アメリカで始まって、小学校で広く実践されている。合意形成を目的にしないので、問いの立て方や議論の進め方が自由だ。ぬいぐるみを手にして発言し、それをぐるぐる回すやり方をよく使う。
SDは、ソクラティック・ダイアローグ。時間をうんとかけ、ソクラテスのように実例を深く掘り下げて合意を形成する。司会や議論の進め方が少し違う。
とにかく本書は、わかりやすくて面白い。哲学対話に興味のある学生諸君や教員の皆さんは、ぜひ手にとってほしい。すぐにも対話を始めたくなるはずだ。
文/橋爪大三郎
本質観取の教科書 みんなの納得を生み出す対話
苫野 一徳、岩内 章太郎、稲垣 みどり
2025年11月17日
1,056円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-721389-8
自分とは異なる立場や考えの人と、いかに対話し、合意形成していけばよいのか分からない。
それどころか、深刻な信念対立を目の当たりにし、対話への希望を失ってしまう。そんな人は多いのではないだろうか。
本書は、「本質観取」と呼ばれる哲学の思考法・対話法を、誰もが実践できるようになるための入門書である。
分断をのりこえ、民主主義を成熟させるための対話の極意とは?
実践で活用できるワークシートや、ファシリテーションのコツなども収録。
社会学者 橋爪大三郎氏
とにかくわかりやすくて面白い。実例が豊富なので、
本質観取の哲学対話が、これで誰でもすぐできる。
独立研究者・著作家 山口周氏
対話を通じて、多様な他者と相互承認・共通了解へと至る「本質観取」の方法は、
多数の関係者を束ねるビジネスリーダーにこそ求められます。
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