寂しくはないけれど、奥さんには電話をします

氷河の上で、50日間一人ぼっち。写真家・松本紀生さんに聞く、孤独のススメ_a

——寂しくならないのは、アラスカで写真を撮りはじめた頃から、そうだったのですか?

最初のうちは、寂しさを感じる暇がなかったという方が正しいのかもしれません。ある種の興奮状態というか、ずっと胸が高鳴っているような感覚でした。数年も経つと、もう少し冷静にアラスカにも写真にも向き合えるようになりましたが、その頃には長い時間を一人で過ごすことにも慣れっこになっていましたからね。

——誰かと話したくてたまらなくなる瞬間とか、ないですか?

それが、ないんです。とはいえ僕は10年くらい前から、キャンプには必ず衛星電話を持って行くようにしていて。奥さんとは毎日、電話で話すんです。一年の半分も奥さんをほったらかしにしているわけだから、せめて電話くらいは毎日しよう、と。

——それは、寂しいから電話をかけているわけではない?

寂しいから、ではないな。奥さんと電話する時間は、もちろんすごく楽しみですよ。今日も無事だったということを伝えたいし、彼女が元気なのかも知りたい。でも、寂しいから電話していると感じたことはないかなあ。実際に、衛星電話を買う前は、50日以上、誰とも口を利かなくても平気でしたしね。