「最初は定岡がターゲットだったんですけど」
西本は明治進学を打ち出していたにもかかわらず、巨人の武宮敏明スカウト部長がわざわざ出向いて熱心に口説き落とし、75年ドラフト外で入団する。
「最初、巨人がドラフトにかけるって言われたんですよ。それで楽しみに待ってたんだけど、ドラフト会議で指名がなかった。
そのときにああ裏切られたな、騙されたな、大人ってこういう世界なんだって思い、『俺はもう行かない!』って家族の前で言ったんだけど、兄貴たちがいろいろと考えてくれて『お前今行かないとチャンスないぞ。行きたいと思っても行けない世界なんだから冷静によく考えろよ』って言ってくれ冷静になれました。
我々の時代の寮長だった武宮さんが スカウト部長でうちまで来て『指名できなかったけど、巨人軍はどうしても必要としている』ということを言われたので『わかりました』と承諾し契約しました。
契約金は凄く安かったけど、やっぱりジャイアンツでちゃんとやりたかったですからね。入団発表の時に初めて長嶋さんとお会いし、かっこいいなと思いましたね」
近年はドラフト下位や育成の台頭が目覚ましいため、昔に比べて幾分チャンスを与えられる機会が増えたようだが、西本が入った時代は、あからさまな格差があった。
現に、長嶋監督元年のドラ1の鹿児島実業の定岡正二は、甲子園で東海大相模との延長十五回の死闘で一躍ヒーローとなり、抜群の人気を博したこともあってか入団後ベロビーチへの春季キャンプに抜擢された。
そんなドラ1の定岡を尻目にドラフト外の西本はコツコツと血の滲むような鍛錬を経て三年目に8勝を挙げて一軍に定着。
「ドラフト1位の定岡とは同じ年だったし、彼は甲子園のスターじゃないですか。だからそういう意味では負けたくないっていうのありましたよね。
だから最初は定岡がターゲットだったんですけど、思ったより早く定岡を抜けたので。でも江川さん来たからね。次はもうエースの江川さんにいかに追いつくか追いこすかですからね」
ドラフト同期の中で西本がダントツの出世頭であり、入団三年目の時点では定岡は一勝もできないどころ一軍にも定着できない有様であっけなく抜いてしまった。
五年目にようやくローテーションに入るかどうかの矢先に怪物・江川卓が入ってきた。西本の心中は穏やかでない。江川とのトレードで小林繁の抜けた枠に誰が入るのか。順当なら江川という声が高まり、まだプロでは未知数の江川に首脳陣はローテーションの枠を与える算段でいる。
「怪物と言われたナンバーワンピッチャーが満を持して入ってきました。年齢的に向こうが一個上。江川さんが入ってくることは、投手陣の一軍枠が一つ減る意味を示すわけですよ。だから正直、もう嫌だなって思いましたね」













