1兆ドルという数字は、中国が「儲かっている」証拠ではない

「現実を無視して無謀に行動する者」
「慎重な検討なしに資源を投入する者」

習近平氏が厳しく断罪している対象は、まさに冒頭で触れた「EVの墓場」を作り出した人々であり、ひいては1兆ドルという見せかけの数字を作り出した構造そのものである。

なぜ、史上最高額の黒字を達成したのに、リーダーは「現実を無視している」と怒るのか。

習近平が激怒した「中国1兆ドルの貿易黒字」の怖すぎる中身…中国経済が直面する「需要なき成長」の構造的な病_2

ここに、中国経済が抱える深刻な病が隠されている。

1兆ドルという数字は、中国が「儲かっている」証拠ではない。国内で売りさばくことができず、余りに余った在庫を、採算度外視で海外へ押し出した結果に過ぎないからだ。

中国国内の人々は、長引く不況でモノを買う力を失っている。不動産バブルが弾け、保有していたマンションの価値が下がり、将来が不安で仕方がない。だから、企業がどれだけモノを作っても、国内では売れない。

だが、工場を止めるわけにはいかない。ここが、自由な市場経済の国とは違うところだ。

普通の国なら、売れなければ作るのをやめるのだが…

普通の国なら、売れなければ作るのをやめる。しかし、中国では地方政府が「成長率」の目標を達成するために、あるいは雇用を維持するために、赤字であっても工場を動かし続けろと命令する。補助金という名の麻薬を投入し、ゾンビのように工場を稼働させ続ける。

行き場を失った製品は、国境を越えるしかない。

1兆ドルという貿易黒字は、言わば中国国内で消費しきれなかった「残り物」の総額であり、国内の不景気の裏返しなのだ。

習近平氏が「誇張のない堅実な成長」を求めた背景には、数字作りだけを目的にした、中身のない生産活動への苛立ちがある。

この異常な状態に対し、世界経済の番人とも言える国際通貨基金(IMF)も、強い警告を発している。

IMFのクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事は、中国訪問時にこう述べた。

「中国の内需は、不動産部門が依然として不安定な基盤にあることも一因となり、持続的に低迷している。これにより消費者の信頼感が低下し、消費の弱さとデフレ圧力を招いている。

貿易相手国と比較してインフレ率が低いことが、実質為替レートの大幅な減価をもたらした。そして、これが中国の輸出をより安価にし、輸出への過度な依存を長引かせ、対外不均衡を悪化させている」

「世界第2位の経済大国として、中国は輸出から多くの成長を生み出すには大きすぎる存在であり、輸出主導の成長に頼り続けることは、世界的な貿易摩擦をさらに助長するリスクがある」
(IMF「 "Press Briefing on China Article IV Consultation"」12月12日からの引用)