「票の貸し借り」によって成立していた共存関係
この「票の貸し借り」によって成立していた共存関係は、両党の国会議員にとって、自らの議席を守るための生命維持装置であった。しかし、その装置に依存するあまり、両党の政治は次第にその理念を蝕まれていった。
公明党は、自民党の「政治とカネ」の問題に目をつむり、「クリーンな政治」という自らの看板を汚し続けた。
自民党は、本来相容れないはずの公明党の平和主義に配慮し、政策の純度を下げざるを得なかった。特に、高市早苗総裁のような明確な保守理念を掲げる政治家にとって、公明党との調整は常に政策実現の足枷であったはずだ。
だが、その足枷を断ち切るための周到な準備や、連立パートナーへの最低限の敬意を欠いた無計画さは、政治指導者として致命的な欠陥と言わざるを得ない。理念を掲げることと、それを実現するための現実的な戦略を構築することは、全く別の能力なのである。
国政レベルでの共倒れのリスクとは対照的に、地方に目を転じれば、全く異なる風景が広がっている。連立という「しがらみ」から解放されることで、両党はむしろ、それぞれの支持基盤を固め、勢いを増す可能性があるのだ。
自民党は、これまで公明党に配慮して曖昧にしてきた安全保障政策や歴史認識について、よりストレートに保守的な主張を展開できるようになる。
連立離脱直後で得票を伸ばした公明候補
それは、連立に不満を抱き、自民党から離れていた「岩盤保守層」を呼び戻す効果をもたらすかもしれない。喩えるなら、窮屈な既製服を脱ぎ捨て、本来の自分の体格に合ったオーダーメイドの服を着るようなものだ。その姿は、一部の人々には魅力的に映り、新たな支持を集める可能性がある。
公明党にとっては、この解放の効果はさらに劇的である。「クリーンな平和の党」という原点に、ようやく立ち返ることができるからだ。
自民党の裏金問題にうんざりし、タカ派的な政策に心を痛めていた支持者たちが、再び誇りを持って党を支えるようになるだろう。
そのささやかな証左として、連立離脱直後の2025年10月12日に行われた長野県安曇野市や三重県志摩市の地方選挙で、公明党候補が得票を伸ばしたという事実がある。
理念を貫くという指導部の決断が、即座に足元の組織を活性化させるという、政治の美しい力学がそこには働いていた。党の存亡をかけた決断を、現場の支持者が「英断」として歓迎する。これほど力強い追い風はない。
国政の舞台では互いの足を引っ張り合っていた関係が、地方レベルでは、それぞれが「自分たちらしい選挙」を展開することで、支持を回復させるという逆説的な状況が生まれるかもしれないのだ。