創価学会の組織票は「魔法の杖」
10月10日、永田町に一つの時代が終わったことを告げる鐘が鳴り響いた。公明党が、26年間にわたる自民党との連立関係に終止符を打ったのである。まるで長年連れ添った夫婦の熟年離婚のように、その報は世間に衝撃と一抹の感慨をもたらした。
テレビのワイドショーからSNSのタイムラインまで、世論は「どちらが悪いのか」「どちらが得をし、どちらが損をするのか」という、ある意味では下世話な問いで満ち溢れた。
多くの分析は、選挙協力という最大の武器を失う自民党の損失が大きいと結論づけている。確かに、政権与党の座から転落するリスクを考えれば、その見立ては正しいのかもしれない。
しかし、この歴史的な破局の本質は、単純な損得勘定では測れない、より深く構造的な問題を内包している。国政選挙と地方選挙、そして政党組織と個々の国会議員。視点を変えることで、この「離婚」がもたらす風景は全く異なって見える。
本稿では、その複雑な風景を丁寧に読み解きながら、「本当に損をするのは誰か」という問いの核心に迫りたい。
日本の国政選挙、とりわけ一選挙区から一人しか当選できない衆議院の小選挙区制度は、極めて残酷な戦場である。二位では駄目なのだ。
このゼロサムゲームを勝ち抜くために、自民党と公明党は四半世紀にわたり、緊密な共依存関係を築き上げてきた。連立解消とは、この互いの生命線を断ち切る行為に他ならない。
自民党にとって、公明党の支援、すなわち創価学会の組織票は、都市部の接戦区を制するための「魔法の杖」であった。選挙終盤、あと一歩が届かない候補者にとって、最後のひと押しを担ってくれる1万から2万票の重みは、計り知れない。
それは、乾いた大地に注がれる恵みの雨であり、勝敗を分ける最後の切り札であった。この「魔法」が使えなくなる現実を、JX通信社代表取締役の米重克洋氏は、記事『自公連立解消により、次期衆院選に生じる影響を選挙結果から試算してみた』の中で、冷徹な数字をもって突きつけている。
「52の選挙区で当選者が入れ替わる結果」
「試算の結果、2024年衆院選で自民党候補が小選挙区当選した132選挙区のうち、実に52の選挙区で当選者が入れ替わる結果となった。加えて、それとは別に10選挙区では自民候補と次点候補の得票差が5ポイント以内の接戦となり、当落選上に下がってくることも分かった」
実に52選挙区。これは自民党の小選挙区当選者の約4割に相当する。党幹部であろうと、多選のベテランであろうと、例外ではない。この数字は、自民党の勝利がいかに公明党の支援という砂上の楼閣に支えられていたかを物語っている。
一方で、公明党もまた、自民党の支援なくしては成り立たなかった。公明党が小選挙区で候補者を擁立する際、自民党からの推薦と、その支持層からの票がなければ、当選は極めて困難である。
創価学会という強固な組織票だけでは、無党派層や他党支持層が入り乱れる小選挙区の戦いを勝ち抜くことはできない。自民党の支援は、公明党が全国政党としての体面を保つための、いわば安全保障であった。
