「被告人を死刑に処する」
「長い裁判の末に絞首刑になってしまう。絞首刑になるのは長くつらく苦しいので、そういう死に方は嫌だ」
検察側の冒頭陳述によると、青木被告は被害者らを殺害後、自宅に立てこもっていた時に母親にこう漏らしたという。
判決では、被告は2023年5月25日夕方ころに自宅近くを通りかかった竹内靖子さん(当時70歳)と村上幸枝さん(同66)をナイフで刺殺したうえ、通報で臨場した中野署の池内卓夫警部(同61)=2階級特進=に猟銃を発射し、玉井良樹警視(同46)=2階級特進=にも発砲してナイフで刺殺した。
長野地裁で9月4日からはじまった裁判は同月26日に結審。その後、約2週間の裁判官と裁判員による評議の末、「死刑判決」の判断に至った。
10月14日午後1時23分、法廷に灰色長袖に緑色のズボン姿で入廷してきた青木被告。やや伏し目がちで、傍聴人から目をそらすように被告人席に着席すると、これまでの公判と同じように目を閉じはじめた。
被告の入廷から4分後、判決公判が開廷した。この裁判では、極刑が言い渡される際によく用いられる「主文後回し」がなされた。仮に、裁判の冒頭で「死刑判決」が宣告されると、被告が動揺して判決理由となる説明を冷静に聞けなくなることを避けるためだとされている。
坂田裁判長は、弁護側の心神耗弱との主張を「(被告の)生活状況等に照らしても、本件当時に善悪を判断し行動する能力に問題はなく、完全責任能力を有していたと認められる」と退け、被告の犯行をこう断罪した。
「被害者らに容赦なく攻撃を加え、短時間のうちに4名もの尊い命を奪った残虐極まりない犯行である。殺人行為を重ねてもなお淡々とし、人の生命を軽視してはばからない様子には、戦慄を覚えずにはいられない。(中略)本件の犯情、結果の重大性、残虐性等を前にしたとき、やはり被告人の刑事責任はあまりにも重大といわざるを得ない」(判決から)
判決理由が読み上げられている最中、青木被告は猫背になり目をつぶって爪をいじったり、身体を前後に揺らしたり、つま先を上下に動かすなど落ち着きがなかった。
午後2時7分、坂田裁判長は青木被告を証言台の前に起立させると「主文」を言い渡した。
「被告人を死刑に処する」
青木被告は表情を変えることなく、坂田裁判長の方をまっすぐ向いていた。しかし、被告人席に戻る際、一瞬前を見つめて目を見開き、「死刑判決」に動揺したような表情を見せた。これまでの裁判では、終始無表情の被告がはじめて見せた表情がなんとも印象的であった。
最後まで被告の口から事件の真相が語られることはなく、第一審の裁判は終わった。