5月の午後に起きた惨劇…静かな町が一変した日
2023年5月25日午後4時26分。
長野県中野市江部の住宅街で「屋外で女性が刺されている」との通報が警察に入った。
現場に駆けつけた警察官に対し、青木政憲被告は猟銃を発砲。
警察官2人(玉井良樹警部補・46、池内卓夫巡査部長・61)、住民女性2人(村上幸枝さん・66、竹内靖子さん・70)が命を落とした。
犯行後、青木被告は母親を人質に取って自宅に立てこもり、12時間に及ぶ緊迫した状態が続いたが、翌26日午前4時半、警察の特殊部隊が突入し、殺人容疑で現行犯逮捕された。
静かな田園地帯が、一夜にして“恐怖”に包まれた。
住民たちは家の明かりを消し、物音ひとつ立てずに息をひそめていたという。
「人を殺したのに笑っていた」 目撃者の証言
事件直後、現場付近で救助に当たった住民の一人は、当時の光景がずっと忘れられなかったという。
「倒れていた女性の瞳孔は開き始め、すでに硬直していた。助けようとしたが、『逃げろ!』という声が聞こえた。振り向くと、迷彩服に帽子、サングラス姿の男が立っていました」
その男──青木被告は、サバイバルナイフを手に、頬に笑みを浮かべていたという。
「人を殺したのに笑っていた。あんな顔は初めて見た」と、救助者は震えながら語った。
発砲後も焦る様子はなく、ゆっくりと現場を離れていったという。
その異様な落ち着きが、かえって恐怖を際立たせた。

過保護な家庭、閉ざされた関係 “孤立する長男”の素顔
青木被告は地元では知られた名士一家の長男として生まれた。
父は市議会議長も務め、家庭は13代続いた裕福な農家で、両親は被告を高校まで送り迎えするほどの過保護ぶりだった。
中学時代の文集には自ら、
「命が一番大事、二番目はお金」「将来は社長になりたい」などと綴るも、当時の同級生たちは「どこか浮いていた」「少し変わっていた」と口を揃える。
大学を中退してからは自宅にこもることが増え、地域活動や祭り、消防団などにも一切関わらなかった。
「近所付き合いを拒み、犬の飼育をめぐってトラブルになったこともある」との地元住民の証言もある。
親族の一人はこう語っていた。
「親が良かれと思って手を出しすぎた結果、彼は自分で考える力を失った。孤独に耐える術もなかったのだと思う」