集団の意思決定が誤った判断になってしまう現象も
ところで、リーダーに逆らえないような組織ではなく、本当に凝集性が高く閉鎖的な集団の場合には、危機的状況に直面したときに的確な決定をするのが難しくなることがあります。物事を決定するとき、一人よりも集団で協議したほうが優れた結果が得られると考えがちですが、集団で決めることにより、かえって誤った方向にいってしまうことがあるのです。
このように、集団の意思決定が一人で考えた判断よりも劣った、誤った判断になってしまう現象を、「集団的浅慮」といいます。
集団的浅慮を引き起こしやすい集団では、異論を唱えることへの心理的圧力があって反対意見が出にくいうえ、外部からの意見を軽視してしまうという傾向があります。
つまり心理的安全性が低い職場です。
世間的には「間違った決定などしそうにない」と信用性の高い大企業でも、こうした集団的浅慮は発生します。閉鎖的な組織の場合は、誤りを指摘されても認めたくないという心理が働くからです。
たとえば、顧客情報のセキュリティについて脆弱性が指摘されていたのに、対処せずシステムを稼働させていた結果、膨大な顧客情報の流出につながった金融機関や流通企業のケースなどがこれにあたります。
対処しないという決定事項が間違っていたと判明した場合、すぐに決定を撤回すれば傷口を広げずに済むはずです。しかし、一度決定したことがある程度進行してしまうと、覆すことが難しくなってしまいます。あえて費やしてきた労力を無駄にできない、自分たちの過失を認めたくない、あるいはリーダーの顔に泥を塗るわけにはいかないなどの思いから、一つの決定にこだわり続ける「心理的拘泥現象」が起こるからです。
「集団的浅慮」を提唱したアメリカの心理学者アーヴィング・ジャニスは、他の選択肢を十分に検討しない、都合の良い情報ばかり重視して分析する、想定外の非常事態やその対策についての考慮が乏しいといった傾向を改善しない場合に、集団的浅慮に陥りやすいと指摘しています。
これを避けるには、わざと反対意見を述べる「悪魔の擁護者」をメンバーの中に作っておく方法が有効だといわれています。これにより、他のメンバーが遠慮することなく自由に意見を言えるようになり、集団の意見を再検討する機会が生まれるからです。
チームビルディングや会議を有益にするための方法の一つとして、「蒸し返し厳禁ルール」というものもあります。会議中、話が脱線している、あるいは議論の蒸し返しだと感じたら、誰でも発動できる「蒸し返し厳禁」を意味する警告カードやびっくりチキン(音が鳴る鳥の人形など)を、手に持って掲げるなどです。
この合図が、本題に戻ろう、話を蒸し返すのをやめようという意思表示になります。さまざまな工夫で、集団的浅慮に陥ることを避けることが、場合によっては必要です。
文/舟木彩乃