一度も浮上することはなく、6年間を漂流
「周りは医者の子どもも多く、お父さんの後を継ぐとか明確な目標を持っている子が多かったです。でも、自分には目標がなかったし、やりたいこともありませんでした。A中学に合格するのが目標だったので、入学してから勉強をする目的がなくなってしまいました」
留年する生徒を出さない方針の学校だったので、なんとか高校に進学できた。しかし、やる気が出るタイミングは訪れず、成績はずっと低迷したまま。気づけば高校2年生になっていた。
大学進学が当然という環境の中で、タツヤさんも高校2年生で志望校を決めた。さすがに今までよりは勉強をするようになったが、気持ちは入らなかった。
大学受験の結果は不合格。浪人することになった。
「浪人して予備校に入ったことで、ようやく『絶対合格しないといけない』という目標が見つかりました。それで、勉強をするようになり、1年間で盛り返して無事志望校に合格しました」
タツヤさんは都内の難関大学に進学した。
「A中学に通ったことは、よかったと思っています。もし公立の中学に進んでいたら、母が言っていたように人間関係で苦労していたかもしれません。結果的には、志望していた大学にも進むことができました」
ただ、とタツヤさんは語る。
「校風と偏差値を重視して学校を選びましたが、カリキュラムや学校の特色ももっと見ておけばよかったと。中高一貫校は理系に力を入れているところが多く、A中学はその傾向が特に強かったんです。自分の特性にあっていなかったこともあり、勉強への意欲がなかなか湧きませんでした。得意なことや興味を持てる分野が見つかっていたら、もっと前向きに取り組めていたのかもしれません」
大学を卒業し、社会人になった今では忙しい毎日を送っている。
「6年間深海魚でしたが、特に大きなトラブルがなかった。でも、一度下がった自己肯定感は今でも取り戻せていないという事実は残り続けていますかね」
志望校合格はゴールではなく、スタートに過ぎない。タツヤさんの経験は、そのことを静かに物語っている。
取材・文/集英社オンライン編集部