夫の「中学受験をしよう」の一言ですべてが一変
「中学受験で息子が失ったものは果てしなく大きいです。もしも人生をやり直せるのなら、長男が小学4年生だった頃に戻りたい。そして『中学受験をさせよう』と言った夫を、なんとしてでも止めたいです」
そう語るのは、都内で2人の息子と暮らす美希さん。美希さんは教育関係の仕事をしており、長男のハヤトくんは18歳、次男は現在中学2年生だ。ハヤトくんは小学4年生の時、中学受験をすることを決めた。
「クラスのほぼ全員が中学受験をするほど、教育熱心な地区の小学校に通っていました。私としては本人が好きなことを見つけて、伸び伸びと育ってほしいという思いでした。中学受験も『本人が望めば』という気持ちでした」(美希さん、以下同)
ハヤトくんはごく普通の小学生として、放課後は友達とドッジボールやゲームをしたり、楽しい学校生活を送っていた。ところが、小学4年生になったタイミングで状況が一変。夫が突然「中学受験をしよう」とハヤトくんに言い始めたのだ。
「ほぼ強制です。夫の会社の同僚たちが中学受験をさせていると聞いて、影響を受けたようでした。同僚の息子さんが合格したというA中学を志望校に決め、『A中学に絶対に合格しよう!』と言い出し、勝手に塾まで決めてきました。当時、我が家は夫の言うことが絶対で、反論できる状況ではありません。夫に言われるまま中学受験に向けた勉強が始まりました」
A中学は難関校として有名な都内の私立中学だ。難関校合格に向けて、その日からハヤトくんの生活はガラリと変わった。放課後はすべて塾の時間になり、家での学習も深夜まで続いた。
「夫は仕事から帰ると、息子の学習内容や進捗をテキストやノートでくまなくチェックしました。理解が足りないと判断すると寝ている息子を叩き起こし、そこから深夜の復習です。何度も『こんな遅くにやめて』と止めたのですが、『このままじゃ、A中学に受からない』と言って耳を貸しませんでした。
仕事が早く終わった日は、息子と一緒にお風呂に入り、湯船に浸かりながら勉強させることもありました。長時間浴室にいることで息子もフラフラです。何度も無理やりお風呂から出させました」
美希さんはハヤトくんに度々「大丈夫?」と聞きます。本人は「大丈夫。パパの話は長いけど、反抗するともっと面倒だから、とりあえず言うことを聞く」とかなり冷静な様子。「息子は穏やかな性格で、夫の無茶な指導にも文句を言わず、毎日勉強をしていました」