クマ報道のたびに「なぜ駆除するのか。かわいそうじゃないか」という電話が…

20日に岩手県盛岡市の原敬記念館の敷地内に侵入した10歳くらいとみられるクマの成獣は、市民からの通報により、まず警察が現地に駆けつけた。そして警察から連絡が入ったのが、盛岡市役所の農政課である。

12時頃、農政課が現地に駆けつけ、捕獲のための麻酔の吹き矢を打つ、盛岡市動物公園の獣医師を呼んだ。駆除には県の許可が必要なため、岩手県庁関係者も集まった。4者とクマが睨み合う中で、約4時間後の午後15時30分にクマは捕獲され、山で駆除された。農政課の担当者が言う。

「麻酔の吹き矢により昏睡したクマを農政課の車に乗せ、盛岡市内の山林に運ぶとともに、現地には鳥獣被害対策実施隊にご所属いただいている猟友会のかたを呼び、鉄砲で殺処分しました。

21日朝の時点で市のメールに『なぜ駆除するのか。かわいそうじゃないか』といったご意見と、『なんでもっと早く駆除しないのか』といったメールが来ていました」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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この時点では数件のメールだったが、今年に入り、駆除の報道が出るたびにこの2つのご意見が電話で寄せられるそうで、長い時では30分以上に及ぶこともあるという。

「ご意見は『駆除するな』と『早く駆除しろ』のふたつのご意見ですが、駆除するなというかたのほうがヒートアップしたり、長くなる印象です。すべての駆除の決定は私ども市役所だけで行っているわけではありません。

捕獲には県、発砲には警察の許可が必要ですし、さらに発砲は猟銃免許を持つかたなどが行います。すべてはここに住まう市民の安心安全を守るもので、それを覆すことはできません。ですので、ただご意見をいただくことしかできないのが現状です」

写真はイメージです(PhotoAC)
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今年9月1日に改正鳥獣保護管理法が施行された。これにより、一定の条件をクリアすれば、日常生活圏においても、特例的に市町村長の判断・指示で委託を受けたハンターが緊急に銃猟を使用することが可能になった。

かつて警察の判断の遅れで発砲のタイミングが遅れた事例があったことから法律が改正された経緯がある。だが、このような世の動きとは別に「クマを殺すな」「山に帰せ」といった意見が100件以上も届く役場もある。

今年7月12日、北海道南部の福島町で新聞配達員の男性が早朝の市街地でクマに襲われ命を落とす事故が起きた。クマの殺処分は18日で、その一連の様子が報道されると、翌日から1週間ほど福島町役場に100件ものご意見が届いたという。

そのほとんどが「なぜ殺した?」というもの。福島町役場の総務課の担当者はこう嘆く。

「もう1日中、電話が鳴り響いている状態でした。愛護の気持ちが強いかたは『もともとクマが住んでいるところに人間が住んだだけだ、クマに罪はない』と平然とおっしゃいます。

すでに人が亡くなっている事故が起きてのことと説明した上で、『ご家族が被害に遭われたら、それでもそういうご意見を持たれますか』と言いましたところ『それでも人間が悪い』と。噛み合わないんです。とにかくご意見をくださるかたが納得するまで聞くしかない状態です」

北海道の福島町のヒグマップ
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100件の電話は100人がかけているわけではなく、同一人物が連続してかけてくることもあった。

「業務に差し支えるので非通知の電話は受けないようにしようとなったら、別部署に非通知で電話して繋がれたこともありました」と嘆く。しかも「そのようなご意見をいただくかたのほとんどが道民ではなく他県の方だった」そうだ。

ただ、役場が対応に苦慮したのはご意見をくださる人たちだけではない。「報道陣による取材活動」にも苦しんだと、前出の役場の担当者は続ける。

「10月12日に事故が起き、我々は一刻も早い駆除のために24時間体制でパトロールしました。しかし、テレビ局も24時間体制で我々が仕掛けた箱穴付近に張り付いている。これではクマを捕獲できない。

また、報道陣の中には私有地にカメラを仕込んでいる方もいました。そのスクープ映像が9月頃にも流れたら、またご意見のお電話が鳴りまして。もうその映像は使い回さないでいただきたい…と思いましたね」

写真はイメージです(PhotoAC)
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