ドラフト上位指名が育たない理由に目を向けるべき
20年に日本シリーズを4連覇したとき、孫正義オーナーは65〜73年に巨人が成し遂げたV9(日本シリーズ9連覇)を超えると宣言した。19、20年にセ・リーグの覇者、巨人に日本シリーズで2年続けて負けなしの4連勝を飾ったあとだったので、その宣言には信憑性があった。
翌21年に4位に陥落したあと工藤公康監督が辞任し、新監督に二軍監督だった藤本博史氏が就任、22年2位、23年3位とAクラスを保持したものの、4連覇の頃の無敵ぶりは鳴りを潜め、22年オフは80億円の大補強、23年オフはFA権を行使した山川穂高を獲得と、やっていることは札束で選手の頰を叩いて入団を迫る90年代の巨人のようである。
だが、ソフトバンクは勝ちすぎて臆病になっている。
昨年も新外国人野手のガルビス、アストゥディーヨ、ホーキンスがまったく戦力にならず、22年限りで自由契約にしたデスパイネと23年6月に再契約したが(23年オフに退団)、こんなに恥ずかしい外国人の獲得話はそうそうない。
西武はファンの支持を失った山川を放出して、昨年セットアッパーとして46試合に登板し、3勝1敗2セーブ11ホールドポイント、防御率2・53を挙げた甲斐野央を獲得できたのだから、万々歳だろう。逆にソフトバンクは山川をDHで起用して、髙橋礼と泉圭輔を放出してまで獲得したウォーカーをベンチに置いたままにするのだろうか。
このオフにはかつてのドラフト上位指名選手が多く退団している。森唯斗(13年2位)、高橋純平(15年1位)、高橋礼(17年2位)、甲斐野央(18年1位)、佐藤直樹(19年1位)、昨年もFA移籍した近藤健介の人的補償で田中正義(16年1位)が日本ハムに移籍している。
試行錯誤しながらドラフト戦略を展開してきたソフトバンク編成陣が、ドラフトに対して何か決着をつけた、という意思表示なのだろうか。
これからは知恵と工夫ではなく、お金だけ使って選手を補強します、とか。そうなると筑後に作ったファーム用の2つの球場やトレーニング施設は無駄な出費だったのかもしれない。
これまでの指名を振り返ると、ドラフト1位で成功ラインに達しているのは12年の東浜巨まで遡らなければならない。こんな球団は他にない。まだ答えの出ていない、井上朋也(20年)、風間球打(21年)、イヒネ・イツア(22年)、前田悠伍(23年)には、せめてチャンスだけは与えてほしい。
今のホークスは、一軍の力があるのかないのかわからない若手は抜擢しないと決めているように見える。結婚したい女性がいるけど、幸せにしてやれる経済的基盤ができるまでは結婚しない、という考えなのだろうか。一緒に苦労してください、という話にはならないのだろうか。小久保裕紀新監督は勇気を持って采配してほしい。