「疲れたことがない」の元ネタはアントニオ猪木
つまりレインメーカーに命を吹き込んでしまったのも僕だが、その直前オカダのマイクが発端となって「疲れたことがない」のフレーズが生まれたわけでもある。レスラーのこういう関係性はやはり面白いものだなと自分でも思っている。
もっとも、この「疲れたことがない」という言葉を言ったのは、実はアントニオ猪木さんだ。
「お疲れ様でございます。新しく入門させていただきました棚橋です」
これは僕が猪木さんに初めてお会いした時の挨拶の言葉だ。
当時、新日本プロレスにおける挨拶は「こんにちは」などではなく「お疲れ様です」で統一されていた。ただ猪木さんと坂口征二さんにのみ「お疲れ様でございます」と挨拶する不文律が存在することを新日本プロレスへの入門時に教わる。
その通り告げた僕に対し猪木さんが返した言葉は一つ。
「疲れてねえよ」
この猪木さんの返答から、僕の脳裏には「うおー、猪木さん疲れないんだ、カッコいい!」という印象が深く刻み込まれた。
そこから十数年の時を経て、オカダの「お疲れ様でした」というフレーズを聞いてこの記憶がパッと浮かび上がり、「疲れたことがない」というセリフが生まれたのだ。
そんな長い時を経て開花したこの決めゼリフを、レスラーという職業はタフな仕事だというイメージを伝えていく意味でも、僕はとても大事にしている。
プロレスというとどうしても怖くて痛そうとか、暴力的とか、血が出るとかのイメージを持たれがちだ。だからこそひたすらタフであることを強調する「疲れたことがない」というセリフが、これらのイメージを払拭してくれることを願っている。
僕は、プロレスファンの方にプロレスは何を売っているのだろうと考えたことがある。例えば自販機にお金を入れたらジュースが出てくる。
プロレスに置き換えれば、お金……つまりチケット代を払って会場に来てくれた方々に、対価として試合をファンの方々に見せているわけだ。
だけどそれは試合そのものだけではない。プロレスはファンの方々にエネルギーを売っているのではないだろうか。僕たちがエネルギーを売って、「応援する選手が頑張ったから僕もちょっと勉強を頑張ろう」とか、「スポーツを頑張ってみるかな」とか、日常生活や仕事を頑張るエネルギーをプロレスから受け取ってもらえたらうれしい。
その意味では社長業とは、そういう元気や勇気を選手がファンの方々に提供できる環境を構築していく仕事なのかもしれない。
だからそのために、僕は社長として疲れることはない。