「両さんの就職案内の巻」(ジャンプ・コミックス第97巻収録)

今回は、勤務先が次々と潰れてしまうという中年男の再就職先探しに、両さんが駆け回るお話をお届けする。

本作が描かれたのは、1995年。高度成長時代ははるかに遠く、バブル景気も終身雇用制も崩壊して、「失われた10年」……のはずが、その後、現代にまで続く日本経済の低迷期へと突入した頃だ。

真面目に勤め上げてはきたものの、特別な資格や技能を持っているわけではない中年男性の再就職は、両さんの予想を超えて難しく……。しかし男の何気ないひと言が、大逆転劇のきっかけとなる!? 

昭和の時代には珍しくもなんともなかった技能が男を救うことになるのだが、それは現実の令和において再び注目されており、小学生の人気習い事ランキングの上位に入っている。……とここまで申し上げれば、小学生のお子さんを持つ方なら、ある程度騒動がつくかもしれない。

ちなみに、職探しのために両さんや麗子たちが最初に見るのが、就職情報誌やスポーツ新聞の求人欄といった「紙媒体」なのが、本作の描かれた時代を感じさせる。新聞の求人欄に情報がズラリと列記され、コンビニの雑誌棚の隅に履歴書の用紙つき求人誌が刺さっていた頃のお話なのだ。

就職、アルバイト、さらには数時間だけのスキマバイトに至るまで、現代における求人メデイアの中心はネットに移行しており、さまざまな求人サイトがあふれてアプリも用意されている。国が設置・運営するハローワーク(公共職業安定所)だってオンラインサービスをしているし、ハロワ用のサードパーティ製アプリも存在しているのだ。

もちろん有料無料の求人情報誌は今でも健在だが、そこに掲載される情報の多くは、ネット上でもアクセスできるものだ。

ちなみに、本作中で言及されているのだが……両さんは多数の資格と頑強な肉体、そして柔軟な発想力と行動力を兼ね備えた「日本で一番潰しがきく男」である。

ところが、そんな両さんが警察を辞めた後に再就職先を転々とする「世の中大変だ!の巻」(ジャンプ・コミックス第33巻収録)というお話が存在する。

1982年に描かれたこの作品は、第2次オイルショックによって世界的な景気後退と物価上昇のさなかにあって、日本もパッとしなかった頃のものゆえ、両さんがめぐる仕事先の描写はなかなかしんどいものがある。「潰しのきく男」両さんらしからぬ一面を垣間見せる異色作だ。こちらも機会があれば読んでみてほしい。

「世の中大変だ!の巻」より。あの両さんが、働いて稼ぐことの大変さに疲労困憊……。今でいうブラック労働状態?
「世の中大変だ!の巻」より。あの両さんが、働いて稼ぐことの大変さに疲労困憊……。今でいうブラック労働状態?

それでは次のページから、再就職のために駆け回る中年男の悲哀と、意外な逆転劇をお楽しみください!!