安倍家に弔問、そこで昭恵さんからもらった言葉
2022年7月8日、奈良市で選挙演説中の安倍さんが銃撃され、死亡した。〈大丈夫?〉〈これからどうするの…?〉佐竹さんのスマートフォンには友人や仕事仲間からおびただしい通知が届き、電話は終日鳴りやむことはなかった。佐竹さんはその日行なわれる予定だったものまね舞台の出演をキャンセルし、そのまま活動自粛に入った。
SNSを開くと、〈絶対ものまね辞めないで〉〈今だからこそ見たい〉などのコメントが数千件寄せられていたが、ものまねをする気にはなれなかった。
「安倍さんが亡くなったことを速報で知ったとき、頭が真っ白になりました。どこか親戚のおじさんのような身近な方が亡くなったのに近い感覚で、強い喪失感と虚無感に襲われました。僕としても気持ちの整理が必要だったんです」
銃撃事件以降は、安倍さんネタでの出演は一切なくなり、活動自粛期間中は、幼い娘の育児で憔悴する気持ちを紛らわせた。この先、ものまねを続けるべきか――、逡巡する日々を送った。
同年9月、国葬が行なわれた日も一般献花に訪れた佐竹さん。そこで多くの人が安倍さんを悼む姿を見て、「これからも安倍さんのことを忘れたくない」と強く思った。
安倍さんが亡くなってからそれまで、妻の昭恵さんに連絡を取ることは控えていた。しかし、国葬後、共通の友人の後押しもあり、連絡を入れてみると、「主人も喜ぶと思うので、うちに一度おいで」と自宅に招いてもらった。
安倍さんの仏壇に手を合わせた後、昭恵さんと話す時間をもらえた。そこで、安倍さんのものまねをするに至った経緯や、そのことでいろんな人に温かい言葉をかけてもらって嬉しかったことなどを昭恵さんに伝えた。
「芸人としてご飯を食べていけるのも、安倍さんがいたからなんです」
そう感謝の言葉を伝えると、昭恵さんは涙を流しながら、「これからも大変だと思うけど、主人のものまね続けてください」と言ってくれた。
「ビスケッティ佐竹という芸人が世に見てもらうきっかけになったのは、安倍晋三さんがいたからこそ。感謝の気持ちとともに、安倍晋三という政治家がいたことを忘れないために、僕が伝えていく作業を続けていきたいと思いました」
活動再開を決めた瞬間だった。
後編「安倍元首相ものまね芸の再開、『不謹慎だ』と言われたことも…」はこちらから
取材・文/木下未希 撮影/石垣星児