臓器提供の同意率アップからトイレを綺麗にする効果まで…池上彰が解説する「社会を変えるナッジ理論」
男性用の小便器に描かれた的。その的目掛けて無意識に用を足した経験が男性なら誰しもあるはずだ。これはナッジ(英語でそっとヒジでつつくという意味)理論と呼ばれるもので、強制ではなく、さりげなく巧みに人々を好ましい方向へさしむける行動経済学の手法だ。
書籍『なぜ人はそれを買うのか? 新 行動経済学入門』より一部を抜粋・再構成し、ナッジ理論を解説する。
なぜ人はそれを買うのか? 新 行動経済学入門 #3
「運動を続けたら生命保険料が安くなります」
運動などで健康増進に努めたり、検診で問題なければ保険料が安くなったりする健康増進型保険が登場しています。
住友生命が同保険の加入時に健康数値の悪かった人を対象に、その後の状態を調べたところ、かなり改善されていることが判明しました。
数値が大幅に改善した人の割合は、血圧が44%、血糖値が31%、LDLコレステロールが39%。これを裏づけるように、加入者の1日あたりの歩数は、加入1年目と比べて1割近く増えていることもわかっています。
「健康のために運動しましょう」とただ呼びかけられても、人はなかなか動きません。ところが「運動を続けたら生命保険料が安くなります」「還付金としてこれだけ戻ってきます」と現実的なメリットを提示されたら、人はせっせと健康増進に努めるようになる。
逆に健康状態が悪くなれば、保険料が上がる可能性もあるのが健康増進型保険です。
そっとヒジでつつくというよりは、馬の鼻先にニンジンをつるすような手法です。これは「損をしたくない」という私たちの損失回避性の心理を突いた保険ともいえます。動きたがらない人間を動かすには、ごく現実的な利得とセットにするのもひとつの方法です。
動きたがらない人間を動かすなら現実的な利得とセットにするのも有効
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なぜ人はそれを買うのか? 新 行動経済学入門
池上彰
2025/8/13
1,590円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4054070509
★★世界が注目!ビジネスに効く!池上彰氏が解説★★
行動心理を読み解く最新理論【行動経済学】がわかる!
基礎からあらゆるビジネスの場面での使い方まで、豊富なイラストとわかりやすい解説で、サクッと理解できる!
●行動経済学を知らないとマズい時代が来ている!?
本屋さんで経済学のコーナーを眺めてみてください。いまや行動経済学の本が多く並んでいるはずです。こうした傾向は日本だけではありません。世界のビジネスエリートや大学、そして名だたる企業からも行動経済学は注目されているのです。
◆人間は感情や思い込み、状況に左右されている…
「人間とは何か」を追求すればビジネスにも役立つ!◆
・売上を上げたいなら、二択よりも三択!
・「損したくない」が行動を決めている!
・人を操る魔法の理論「ナッジ」とは?
・人は必ずしも合理的に行動しない!?
・あぶく銭ほど散財してしまうのはなぜ?
・値下げするなら「アンカリング効果」を使うべし!
・「成功率95%」と「失敗率5%」の違いは?
※2022年に弊社より刊行された『池上彰の行動経済学入門』の大幅増補改訂版です。
【もくじ】
●Introduction そもそも行動経済学とは何か?
●序章 経済は「人の心」で動いている!行動経済学のキホン
●第1章 身近にあふれる!行動経済学を利用したビジネス戦略
20円の差で売れ行きは伸びる?/「くわしくは○○で」が気になる理由/クラウドファンディングはなぜ流行したのか?/「当店の人気No1」などのポップが有効なのはなぜ?/ヒット商品の鍵を握るMAYA理論とは? ほか
●第2章 意思決定をする直感「ヒューリスティック」とは?
推しのグッズを買い集めてしまうのはなぜ?/なぜ人は損切りがうまくできない?/人はなぜ民間療法を信じやすいのか?/血液型がB型の人はマイペースというのはホント? ほか
●第3章 「損したくない」が行動を決める!?「プロスペクト理論」とは?
ベストな選択をするための「プロスペクト理論」とは?/損失を避けたい心性を証明する「価値関数」/宝くじ当選の夢を人はなぜ見続ける? ほか
●第4章 人は将来よりも「今」を重視する!「現在バイアス」「社会的選好」とは?
1年後の2万円より今日の1万円を選ぶのはなぜ?/空腹時にスーパーに行くとつい買いすぎるのはなぜ?/買い替えの足かせになる「スイッチングコスト」とは? ほか
●第5章 人を操る魔法の理論「ナッジ」とは?
そっとヒジでつつく「ナッジ理論」とは何か?/健康増進型保険は本当に健康に役立っている?/ビッグデータで「個別ナッジ」の時代に/ナッジの危険性と正しい使い方を知ろう! ほか
●第6章 行動経済学が切り拓く未来
「利他性」が生み出す新たな経済活動/SDGsを達成するためにも力を発揮! ほか