二人が主催する「話す」「聞く」の会は、なくていい場所。

── おしゃべりの大切さを知っているお二人は、それぞれ「話す」「聞く」の場を主催されています。青山さんはご自身の著書『元気じゃないけど、悪くない』の読書会(のようなもの)をきっかけに生まれた「ゲンナイ会」を、貂々さんは当事者研究をベースにした「生きるのヘタ会?」や、発達障害に興味のある人が集まる「凸凹(でこぼこ)ある会?」など3つを。詳しくは本にまとめられていますが、誰もが参加できる開かれた場でありながら、ご自身と参加者にとって居心地のよい場所をつくってこられました。そうした場での会話は、いわゆる普段の会話とどう違いますか? 心地よく話す・聞くために心がけていることは?

貂々 私は複数やっているので、会によって少しずつ趣旨や参加者が違うのですが、ポイントを挙げるなら、一つは、アドバイス禁止です。それから「私」を主語にしてしゃべってもらう。誰かが言ってたとか、テレビで言ってたとかは、なしです。

青山 いまの〝アドバイスなし〟に加えて、「ゲンナイ会」は人の体験や話を否定しないようにしています。

貂々 否定しないも大きいですね。それは違うんじゃない、とつい言ってしまう人はいますからね。それから、しゃべったことをその場に置いていく、持ち帰らないことも大事です。その場限りだから安心してしゃべれるんだと思います。

青山 そうですね。貂々さんの会のなかでいちばん長いのは、「生きるのヘタ会?」ですか?

貂々 そうですね。もうすぐ6年です。

青山 私も参加したことがありますが、参加されている人たちは、みなさん、顔見知りとまではいかなくても、前にも会ってるんだな、という雰囲気が感じられるときはあったんです。でも、個人的な話にはあまり立ち入らないというか、関係性を深める感じにはならないですよね。

貂々 はい。仲良くなる場ではないので。一度、参加者の人から、仲良しになりたいからLINE交換していいですかと言われたことがあるんです。それはダメですと言いました。仲良くなりたいなら、ほかの場所に行ってくださいと。ここは自分のもやもやを吐き出す場なので、それ以外の目的だったらほかへ行ってくださいと思っています。

青山 その点も、ほかの場とは違う点かもしれませんね。「孤立しないで誰かとつながりましょう」を目的とする場なら、LINE交換をむしろ勧めるだろうし、お盆やお正月に集まったりしますよね。人との距離を縮めていく関係性は悪いことではないし、いまの時代、むしろよいとされているけれど、しんどいときもある。50年も生きていると、日常はそうした関係で埋め尽くされていますしね。だからこそ、その場限りの「ヘタ会」などに行くと、気持ちが楽になるんだと思います。日常からいったん切り離されるからこそ、普段は言えないようなことが言えるし聞けるんだろうと。

貂々 そうなんですよね。人と人が仲良くなり過ぎると必ずややこしくなります。そのややこしさから逃れたくてここに来てるんだから、わざわざややこしい方向へ自分から向かわなくてもいいんじゃないの? というのが私の考えです。

青山 ほかに普段の人間関係と違う点といえば、普通は継続性はいいことだとされますよね。いい仕事をしたら、次も声がかかるとか。でも「ゲンナイ会」は、これまで来ていた人が来なくなっても、否定的な方向では捉えないんですよ。つまらなかったのかなとは思わない。

貂々 私もそうです。来たい人だけ、来たいときに来る場所なので。なので「来月も来ます!」と言われるとそれはちょっと違うなと思います。そのとき来たければ来てくださいって。

青山 でも私はね、そう言われたら、主催者としてちょっと嬉しいんです。やっぱり貂々さんほど割り切れてない。貂々さんは、会の趣旨はそうじゃないよね、というのをはっきりされてますよね。

貂々 はい。私がやっている会は、できればなくていい場所だと思ってるんです。でもたくさんの人が来てくれるので、みなさん、しゃべれなくて困ってるんだな、じゃあここで吐き出していってくださいって思うんですけど、ここにしがみつくのはよくないとも思っています。周囲に話したり聞いたりする相手を見つけるとか、自分のなかで整理がつけられるようになって、来なくなったらいいなって思っています。以前、1年くらい参加しつづけて、何もしゃべらない人がいたんです。人の話をじっと聞いているだけで。その人があるとき、自分の意見を言ったんですね。そうしたら来なくなりました。きっと吹っ切れて、来なくてよくなったんだと思います。

青山 でもきっと、その方の問題が解決したとか、画期的に何かが変わったとかではないんでしょうね。

貂々 そうだと思います。

青山 「ヘタ会」も「ゲンナイ会」も、人としゃべりたいけどできないとか、人と同じようにできないとか、困りごとや悩みや不安といった〝何か〟を抱えている人が集まる場ですよね。そうした何かを否定されず、ジャッジもされず、聞いてもらえる。つまり「ある」ことは認められる。そうやって人に受け入れられると、自分自身を受け入れられるようになっていくのかなと思います。そうなると、会には来なくなるのかなと。

貂々 そう思いますね。人のことだからわからないですけどね。

青山 はい、ほんとうにそうですね。

人と人はわかりあえなくても、おしゃべりできるし、受け入れてもらえる『相談するってむずかしい』青山ゆみこ×細川貂々_2
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アドバイスより、聞かせてくれてありがとう

青山 貂々さんは「ヘタ会」をやるようになって、少しは生きるのがヘタじゃなくなりましたか? むちゃくちゃヘタから、ちょっとヘタくらいになったとか?

貂々 いや、少しはヘタじゃなくなった、と思った時点でダメなんです。ヘタだって思っていると大丈夫。

青山 そうか、そうか。自覚していることが大事。

貂々 はい、そうです(笑)。もちろん自分が変化したところはあって、たとえば自分をあまり責めなくなりました。これは「凸凹会」が関係してると思います。自分に似た人がこんなにいたんだということがわかって、これでいいんだな、と思えるようになったんです。

青山 「凸凹会」は発達障害をテーマにした会ですね。「ヘタ会」では、貂々さんは進行役だからあまり自分のことをしゃべらないけど、「凸凹会」では、進行役兼、発達障害の当事者としても参加しているから、よくしゃべって面白いと参加者の人に言われるんですよね。

貂々 はい、言われました。「凸凹会」はみなさん、自分の素直な気持ちをしゃべるんです。たとえば「私、忘れ物が多いんですよ」と誰かが言うと、「そういう人が、周りの人の気分を悪くさせるんですよ!」と、ほかの誰かが言うとか。

青山 けんかにはならないんですか?

貂々 大丈夫です。

青山 なんで?

貂々 笑っちゃうからかな。時々言い過ぎる人もいるんですけど、でもそこは言っていい場なので大丈夫。

── けんかにならないのは、関係性のない場だからかもしれませんね。

青山 ああ、そうか。

貂々 そうですね。そしてお互い絶対わかりあえないから、しょうがないか、みたいな感じですね。

青山 「わかりあえない」境地に私はまだ辿り着けてないんだな……。まだまだ修業中の身ですが、会を始めたり、貂々さんとおしゃべりするようになって私が感じているのは、「聞く」ことの難しさであり、大切さです。長年ライターをやってきたので、私はインタビューのときはちゃんと聞くんです。仕事のときは聞けるんだけど、普段、友達としゃべったり、家族としゃべるときは、ぜんぜん聞けてなかったなあと。人の話を遮ってでも自分がしゃべる、ということをやってきた(笑)。でも「ゲンナイ会」で黙って話を聞いていると、話している人は安心するのか、どんどん話してくれるんです。深い話やこれまで出なかったような話が出てきて、聞くほうもさらに聞き入って、さらに話して……という経験を通じて、「聞く」トレーニングをさせてもらっています。

貂々 ゆみこさんの話を聞いて、私にとってもトレーニングになっていると思いました。というのは、息子の話を聞けるようになったので。息子がしゃべりだすと、「でも、それはさあ」とか「それはこうなんじゃない」って返してしまっていたんでけど、それをやめてひたすら聞くようにしたら、息子はずっとしゃべってます。やっぱり聞くのは大事です。

青山 私にとって聞くのが難しいのは、やっぱり何か言いたくなっちゃうんですよ。似たような経験をしていたらアドバイスしたくなるし、正しいかわからないけど私はこう思うよ、って伝えたくなる。アドバイスという名の否定や、的外れな意見になってるかもしれないとわかっているんですが……。貂々さんは私にアドバイスしたくなることはないですか?

貂々 ないです。

青山 私はあるんですよ、たまに。

貂々 そうだったんですね!

青山 性分なんでしょうね。とはいえ最近は何か言いたくなる以上に、「話してくれてありがとう」と思うようになりました。自分もそうですが、話す側は、重い話を聞かせてしまってすみません、ごめんなさい、ってなりがちですよね。そんなときに、聞かせてくれてありがとうが返ってくると安心するし、そうした反応は、アドバイス以上に私にとってありがたいことだと実感しています。

貂々 そうですね。話すのは勇気がいるんですよね。だから、勇気を出して話してくれてありがとうと私も思います。今日もありがとうございます。

青山 こちらこそ、まだまだ修業の身ですが、これからもよろしくお願いします。

相談するってむずかしい
青山 ゆみこ  細川 貂々
相談するってむずかしい
2025年8月5日発売
1,870円(税込)
四六判/200ページ
ISBN: 978-4-08-788120-2

とにかくおしゃべりを続けよう
自分を助けるための「対話の仕方」がわかる本

発達障害による困りごとや、生きづらさを語り合う場を主宰する細川貂々と、心身の不調をきっかけに、目的を持たない対話の場を作った青山ゆみこ。
オープンダイアローグや当事者研究など、話す/聞く場の実践を通して、「相談する」ことの大切さに気づいたふたりがつづる、話して、聞いた日々のこと。

【目次】
はじめに 細川貂々

1章 相談できないふたり  
気配り女子一番の誕生 青山ゆみこ・文
私が相談できなかった頃 細川貂々・漫画
コラム「話す」「聞く」の試み(1) 「当事者研究」ってなに?

2章 話すことの「場」
「弱い自分」が探した居場所 青山ゆみこ・文
自分の場をつくる 細川貂々・漫画
コラム「話す」「聞く」の試み(2) 「オープンダイアローグ」ってなに?

3章 話し方と聞き方 
正解はないけど、方法はある 青山ゆみこ・文
居場所をつくってみて 細川貂々・漫画
コラム「話す」「聞く」の試み(3) 「自助グループ」と「家族会」

4章 変わらないけど、楽になる 
対談 青山ゆみこ×細川貂々
コラム「話す」「聞く」の試み(4) 自分で「場」を開いてみる

5章 あなたが話しはじめることで
「相談」のハードルを下げる 青山ゆみこ・文
みんなでともに 細川貂々・漫画

おわりに 青山ゆみこ

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