読者の中にある
「風にまつわる記憶」と
照らし合わせながら読んでもらえたら

読者の中にある「風にまつわる記憶」と照らし合わせながら読んでもらえたら…『風読みの彼女』宇山佳佑_1
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「風はわたしたちのことを、この世界の出来事を、すべて見つめて記憶しています」
彼女はその風を読む力を持っていた─。
『桜のような僕の恋人』『今夜、ロマンス劇場で』など、ヒット作を送り出してきた宇山佳佑さん。脚本家としても活躍し、昨年は連続テレビドラマ『君が心をくれたから』が大きな話題を呼びました。
宇山さんの最新作『風読みの彼女』は、世界の記憶を持つ風を読む力を持った女性と、彼女に恋をした男性が、「依頼人」たちの問題を解決していく物語。
横須賀でガラス雑貨店を営む彼女を訪ねてくる「風読み」の依頼者たちはそれぞれ事情を抱えていて……。
一話読むたびに心が明るくなる、そんな『風読みの彼女』について、宇山さんにお話を聞きました。

聞き手・構成=タカザワケンジ/撮影=市川 亮

誰かのために能力を使うヒロイン

── 『風読みの彼女』を読みながら幸せな気持ちになりました。「小説すばる」に連載されていましたが、構想はどのように?

 テレビドラマの『君が心をくれたから』が終わって、「小説すばる」でまた連載を、という話をいただいて、どんな話を書こうかと考えました。『君が心をくれたから』が、かつて心を通わせた人のために自分の五感を一つずつ失っていくという過酷な物語だったので、次はライトなラブストーリーを書こうと思ったんです。男の子と女の子が出会って、純粋に恋をする。そんな話がいいなと。
 ただ、その女の子にちょっと特殊な能力を与えたいなと思いました。最初は風とか花とか、いろんなものと会話ができる女の子だったら面白いかなあと。でも考えていくうちに、風と話せるなら、その風はいろんなものを見て知っていて、彼女だけがそれを読み取れるという能力がいいんじゃないかと。だったらラブストーリーを中心にするのではなく、誰かのために能力を使う話にしよう。それでこの形になりました。

── 語り手は野々村帆高ののむらほだか ) という二十二歳の青年。やがて風を読むことができる風架ふうかさんと出会って一緒に働くことになります。帆高くんは登場時ひきこもりなんですよね。

 彼がスタートするのはどういう地点がいいのかなと考えました。ヒロインの風架さんは達観しているというか、すべてお見通しみたいな人。物語を通して変わっていくとしたら帆高くんのほうなので、スタート時にはひきこもっているぐらい極端に落ち込んでいるところから始めたほうが、面白いんじゃないかなと思いました。

── 風架さんは風を読んで、そこから風の記憶を映像のように編集して見せることができる人です。そもそも最初に帆高くんがアルバイトしようと決めるのも、風のおかげ。風架さんのお店のアルバイト募集チラシが風に吹かれて飛んできたからです。

 風に導かれるように物語をスタートさせたいと思いました。風がぜんぶを知っていて、風架さんのお店に導いていったのかもしれないと思ってもらえるように。

── 風架さんのお店は「ガラス雑貨専門店・風読堂かぜよみどう」。木の葉がざわめく木々のトンネルを抜けていくと、年季の入った店構えのお店がある。目に浮かぶようです。

 ガラス雑貨がまず思い浮かんだんですが、ガラス職人にするのは違うと思いました。ガラス職人は表現者ですが、風架は風を読んだり、依頼人の話を聞く人なので。それで、表の顔ではこだわりのあるガラス細工を扱っていて、裏で風読みの仕事を請け負っているというほうがいいなと。

── 食器など実在するブランドと商品が出てきて、それも毎話楽しみでした。

 ガラス雑貨専門店をやるっていうことは、きっと風架さんはものを集めたり、ものをでるタイプの人。日常で使うものに対してもこだわりがあるんだろうなと思ったので。僕はそんなに食器に詳しくないですが、実在するブランドを出したほうが彼女の人間性の表現になるかなと思ったんです。

── 宇山さんの小説では音楽も大切な要素ですね。『桜のような僕の恋人』にはビートルズ、『恋に焦がれたブルー』にはカーペンターズとか。『風読みの彼女』にはオリビア・ニュートン=ジョンの「そよ風の誘惑」が流れてきます。

 知らない音楽が出てきても、今はスマホで簡単に調べられるし、ユーチューブやアップルミュージックなどでも聴けます。若い方が新しいものに出会うきっかけになってくれたらいいなと思います。

── ご自身も執筆中に音楽を聴きますか?

 家で書くことが多いんですが、音楽はいつもかけていますね。物語を書くときは、自分でつくったプレイリストの曲を流しています。この小説にはこれって、自分の中でテーマソングみたいなのを決めていますね。今回は「そよ風の誘惑」でした。