「手を洗えば大丈夫」と言い聞かせて仕事を続ける

23歳で専門学校を卒業して、気象関係の仕事に就いた。夜勤の日は夜11時に仕事が終わる。他の職員は仮眠を取るのだが、西沢さんは共用の布団を使う気になれず、朝まで眠らずに本を読んで時間をつぶした。

あるとき、西沢さんのロッカーに大人のおもちゃが入っていた。上司に訴えたが、「大げさにしないでくれ」と言われて、犯人はわからずじまい。「こんなところにいるのは嫌だ」と思い、1年で辞めた。

その後、公務員試験をいくつか受けた。父親だけでなく親戚には公務員が多かったので、公務員を目指したのだ。西沢さんが就職したのは民営化される前の郵便局だ。埼玉県内の郵便局に配属され、同期の局員たちと一緒にお好み焼きを食べに行ったりして、仲良くなった。

写真はイメージです(PhotoAC)
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郵便局で働いているときは、潔癖症を自分で抑えることができていたという。西沢さんが自分で考えた対処方法はこうだ。

「手を洗えば病気になることはない。1回洗ってダメなら2回。2回洗ってダメなら3回。3回洗えば、もう大丈夫なんだよと自分に言い聞かせたんです。風呂も普通に30分ぐらいで出られるようになったし。

みなさんがそれでうまくいくかわからないですけど、僕はそれで克服したっていうか。今でも潔癖症はあるんですよ、段ボールとか触るのは好きじゃないし。でも、『手を洗えば大丈夫』と言い聞かせることで、どうにかやってきたんです」

 仕事を完璧にできないという恐怖で退職

潔癖症(不潔恐怖)は強迫性障害のひとつだ。強迫性障害の主な症状には潔癖症のほか、戸締りなどを何度も確認してしまう確認行為、人に危害を加えてしまうという恐怖にとらわれる加害恐怖などがある。10代~20代で発症することが多いとも言われ、強いストレスや不安も発症要因の1つと考えられているが、くわしい原因は不明だ。

西沢さんの場合、潔癖症は抑えることができたが、仕事に行くことが怖くなった。入局して4、5年目に配置換えされたことがきっかけだ。

「現金書留とか特殊な郵便を扱う部署に配属されたんです。そこでは誰かが何か1つでも間違えると、解決するまで、みんなが帰れない。そんな難しい仕事、僕には完璧にできないと思うようになって。だんだん仕事が怖くなって、布団から出られなくなっちゃって」

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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無断欠勤を続けていると、「何で来ないんだ」と電話がかかってきた。職場に行くと、「みんながやっている仕事だから、そんなに意識しないで仕事に来いよ」と言ってくれたが、怖くてたまらない。

「結局、いい年して母親に甘えちゃって、辞める手続きも、制服を返すのも、全部母親にやってもらったんです。自分は何もできない人間だと、自分で自分にレッテルを貼って、そこからはもう、家から出なくなったんですね」