「買い物は好きだけど営業されるのは嫌い」の正体

買い物が好きな人は多い。新しいファッションに身を包むこと、最新のガジェットに触れること、こだわりのインテリアを選ぶこと─どれもワクワクする体験だ。しかし、そんな人でも「営業される」と途端に身構える。

それはなぜか?

ある日、Mさんはショッピングモールの雑貨店を歩いていた。目に留まったのは、おしゃれな木製のランプ。立ち止まってじっくり見ていると、すぐに店員が駆け寄ってきた。

「このランプ、とても人気なんですよ!いまなら10%オフなので、お得ですよ!」

Mさんは「お、おう……」と引き気味に頷いた。

実は彼は心のなかで、「素敵なデザインだな」「この部屋に合うかな?」とじっくり考えていたのだが、店員の言葉によって〝買うかどうかの決断〟を迫られた気がした。

結局、「ちょっと考えます」とその場を去ってしまった。

Mさんがこのランプを買わなかったのは、本当に不要だったからではない。「買わされる感」が出た瞬間、楽しみだった買い物が〝決断を迫られる場〞に変わったからだ。

一方で、同じ〝販売〟でも、「あなたの体験をもっと素晴らしいものにする提案」という形に切り替えると、受け手は〝買わされている〟感が薄れ、一気に前向きになる。

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Mさんが別の日に訪れたのは、老舗のステーキハウスだった。メニューを開くと、ウェイターがこう話し始めた。

「本日は特別に、熟成40日のリブアイステーキをご用意しております。熟成の過程で旨みが凝縮し、通常のステーキとは違った深みのある味わいが楽しめます。もし、肉本来の甘みをじっくり堪能したいなら、こちらのペアリングワインと一緒に試していただくのもおすすめですよ」

Mさんは、「なるほど、それは面白そうだな」と思いながら、「試してみようかな」と心が動いた。このとき、ウェイターは「これを買ってください」とは言わず、「こういう物語があり、この商品を選ぶことであなたにこんな素晴らしい体験がある」というアプローチをしていた。

人は「自分の感情を揺さぶり、価値観を満たしてくれる提案」には自然と引き込まれるが、「押し売り」には反発する。

もし、Mさんが「このランプを買えば、部屋がもっと温かみのある空間になりますよ」と言われていたら、彼はランプの価値を想像し、「たしかに、それなら買ってもいいかも」と思ったかもしれない。押し売りと違い、「あなたにとっての価値」を伝えれば、相手は前向きに選択できるのだ。