10年後の将来の現実
「トークはどれくらいかな。養老孟司さんとかなら1回200万円くらいもらえるだろうけど、俺は無理だろうなあ」
「そんなときは自分が企画者だと思って計算してみてください、トークショーの」
「なるほど。10年後の俺のトークショーを企画するなら……100人は無理だな。60人はお客さん呼べそうかな。入場料は2000円じゃ無理そうだから、1500円にして、9万円の売り上げになる。場所代に1万円引いて、残り8万円を出演者と企画者で半分ずつ……だと出演者が可哀想だから、1万円出演者が多くしよう。ってことは、1回5万円が出演者に入る。これが俺の10年後のトークショーのギャラだね、連載よりちょっといいくらいな感じか。なるほど、年に10回くらいはやりそう。俺、人前で話すの好きだし」
「ライブもやってそうですか?」
「確かに、トークと同じくらい歌ってそう。歌のギャラも5万円でいいや。じゃあ、それぞれ年間50万円だから、トークと歌で100万円」
「いいですよ。順当に稼いでます。残り200万円」
「それを絵で稼ぐわけね。例えば1枚5万円だと40枚。それだと月に3、4枚売るってことになるのか。うーん……月に2枚くらいの感じがする。半年に1回、個展をやって12枚ずつの絵を売るって感じだね」
「1年で24枚の絵を売るってことですね。それだと1枚が8万5000円だとできそうですね」
「8万5000円だとなんか半端だから、1枚9万円にしておこう」
「それだと24枚売って、216万円になります」
「ジム、お前のお陰で1000万円ちょっと超えるくらいになったじゃん!」
「いい感じに無理のない計算だと思いますよ」
「不可能じゃなさそうだね。なんだか、10年後楽しそうだよ」
「それが一番大事なことです。私もずっとヒモでいたいくらいです」
「これで10年後、2011年の《将来の現実》は、かなり明確に見えてきた。ジムのお陰だよ」
「はい。これで設定自体はほぼ完了かと」
「次はどうするの?」
「次は、《今の現実》に戻ってきます。そして、常に10年後の《将来の現実》を前提にして、そこと陸続きの現実を作っていくんです。簡単です、目的地が見えてますから。知らない土地へ行くのと、知ってる場所へ帰るの、どちらがラクですか?」
「あれ、なんだろうね。知らない場所に行くときと、そこから帰るときとで時間の感覚が全然違うじゃん。帰るときのほうが圧倒的にラクだよね」
「帰りはもう道がわかってますからね」
「いつも10年後の《将来の現実》を完璧に設定しておけば、迷うことがないのか」
「そうです。[迷い]は青春の副産物じゃないんですよ。ただ《将来の現実》が見えていないから当然のように迷っているわけです。簡単なことです。これを教えないで、失敗ばかり伝えるのはむしろ罪です。そのせいで、どれだけの若い人たちが自殺で亡くなっているか……。私がこの《事務》についての本を『生きのびるための事務』と名付けたのは、そういった若い人が迷うことがないように、地図を作りたいと思ったからです」