抽象的なイメージを数字や文字に置き換える
「それはあり得そうな気が私もします。他人が思えることですから、とても素直で自然なイメージなんだと思います」
「こうやって具体的に《将来の現実》を考えていくと、自分が成長することもちゃんと計算に入れるようになるね」
「それが《事務》のいいところなんです。《事務》とは抽象的なイメージを数字や文字に置き換えて、《具体的な値や計画》として見える形にする技術です。数字に置き換えたり、時間に置き換えたり、文字に置き換えたり。一つ具体的な値が見えるようになると、その《具体的さ》というものには命が宿るんですよね。
命あるものですから、当然のようにその瞬間から成長を始めるんです。10年後のあなたはまだ自分で出版する力はないかもしれませんが、年収1000万円の生活が続けば、当然のように貯蓄も増えますからね、きっと20年後には自分で出版社のようなこともできているはずです。
1ドル紙幣を200年前から持っていてももちろん1ドルのままですが、1ドルの株券を持っていると現在では6000万円以上になってるみたいな、よく株式投資についての本に書いているグラフから学べるのは、株式投資しろってことじゃなくて、1ドルは成長しないけど、株、つまりなんらかの人間が興した会社ってものの価値は必然的に成長するってことです。人間は植物と同じように必ず成長するんです」
「というわけで、恭平、あなたが《失敗》することはありません。やっていることが《好き》であれば。《好き》なことをやり続ける環境を設定すればいいわけですし、やれないことは最初からやらなきゃいいんです。自分の力を正確に判断することが《事務》であり、確実に成長することも計算に入れて楽しい方程式を解いていくのが《事務》です。楽しくないことは一切勘定に入れないことが《事務》です。
さて、先に進めていきましょう。20年後はまたのちに設定するとして、まず10年後のあなたは本を出版しています。1万部は売れてますか?」
「1万部までならなんとなく見える。10万部は見えてないね。5万部くらいが時々あると嬉しいけど、ベースは1万部で考えていきたい」
「具体的で素晴らしいです、飲み込みが早いですね。1500円の本を1冊書くと150万円入るという計算です。1000万円にするためには6冊以上書く必要があります。見えますか?」
「いや見えないな。6冊はさすがにやりすぎでしょ。赤川次郎さんじゃん、それじゃ」「3冊はどうですか?」
「でも俺、今から10年後も毎日ずっと原稿書くんだもんなあ」
「そうですよ、1日、原稿用紙だと何枚くらい書けるといいんですか?」
「小説家の村上春樹さんは1日に原稿用紙10枚書くんだって。どんなときも10枚だってエッセイに書いてた。それくらい書きたいね」
「書いたことありますか?」
「論文なら大学ノートに書いてたけど、そのときは1日でノート10ページだった。挿し絵も入ってたけど」
「できそうですね。単行本1冊って原稿用紙だと何枚くらい必要なんですか?」
「それは知らないなあ。でも村上春樹さんのエッセイ読むと、1日10枚を半年続けるらしいのよね」
「それだとざっと1800枚ですね」
「でも彼のは長編でしょ?上下巻でそれぞれ500ページずつくらいあるんじゃないかな。1冊200ページの本なら原稿用紙350枚くらいってとこかな?」
「毎日10枚書いたら、1ヶ月半で書き上げられそうですね」
「……でもさ、書くネタがあればいいけど、なければ書けないよね……」
「そうやって考えると、急に難しくなるの、わかります?」
「ん?」
「何か一つの素晴らしい作品を必ず作らなくちゃいけない、みたいになると、そのために準備して、構想して、構成を書いて、原稿を書いて、推敲して、って行程があって、年に1冊出せるか出せないかわからない、みたいになるじゃないですか」
「そうすると年収150万円になっちゃうね。それまずいわ」