松たか子の笑顔の告白「私を人殺しだと思ってる?」

最大の衝撃は、物語後半、ネルラが幸太郎に真相を告げるシーンだ。仕事から帰宅した幸太郎に、ネルラは突然こう尋ねる。

「幸太郎さん、私を人殺しだと思ってる?」

しかも笑顔で。しかも竹下通りで買った2200円のワンピースを着て。

2200円のワンピースを着る松たか子(「しあわせな結婚」公式X(@wasekon_tvasahi)より)
2200円のワンピースを着る松たか子(「しあわせな結婚」公式X(@wasekon_tvasahi)より)
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思ったよりも早すぎる告白だった。もっと仮の仲良し夫婦生活を続けて、裏で調査が進み、シリーズの折り返しとなる5話くらいで感づかれる…そんな流れかと思いきや、全然違った。さらにネルラは続ける。

「何も覚えていない、私が殺したか殺してないのかは、わからない」

美しさと狂気が共存する瞬間。「この人は何を考えているのか全くわからない」という恐怖と、「でも綺麗だな」と見惚れてしまう感情が同居する。だから現実主義の幸太郎も、ネルラとの生活を手放せないのだろう。

演技のトーンにも、漫画的・アニメ的な誇張が随所にある。ネルラが巨大なハサミで幸太郎の髪を切ろうとするシーンなど、ほとんどギャグアニメのようなテンポで描かれているが、背景に“殺人犯かも?”の影があるため、笑っていいのか本気で怖がるべきなのか判断に困る。

この“ジャンルの迷子感”が、視聴者の心をざわつかせ、結果として深く印象に残る。

そして最後は「幸太郎と出会ってもう一度しあわせになりたいと思うようになった」「でも15年前のことがしあわせを奪っていく」「しあわせになろうなんて望んだことが間違いだった」と、“タイトル回収”を連発。

おそらくこの2話で、ようやくプロローグが終わったのだろう。本当の“物語”はここから始まるのかもしれない。

SNSには「シリアスとコメディが混在してて目まぐるしい」「どういう物語なのだ、何のジャンルに入れれば、と視聴者を惑わせるところが、個人的には最高に良い」といった、先の読めない展開に翻弄されながらも楽しんでいる声が聞こえてくる。

ドラマは視聴者の望むものをつくるものではなく、翻弄するものだと改めて感じさせられる。ジャンルを分けてわかりやすくするのは簡単だが、それは物語の本当の楽しさを削ぐ補助線かもしれない。たった10話ほどのテレビドラマならではの短い期間だからこそ、この混沌を活かして、ぜひ最後まで駆け抜けてほしい。

取材・文/ライター神山