野木亜紀子が描いてきた「裏テーマ」

映画『ラストマイル』の話題のひとつとして、「シェアード・ユニバース」という邦画では新鮮なアプローチが挙げられる。

「シェアード・ユニバース」とは、同じ宇宙を共有すること、すなわち複数の作品のキャラクターたちが同じ世界線の中で生きているため、作品をまたいで登場するという「MCU」シリーズなどで定番化した仕組みを指す。

『ラストマイル』を手掛けた、脚本家の野木亜紀子、監督の塚原あゆ子、プロデューサーの新井順子は、過去に連続ドラマ『アンナチュラル』『MIU404』でもタッグを組んでいる。つまり、それぞれのキャラクターたちが劇中に登場するというのだ。

そのため鑑賞前には、単純に『アンナチュラル』『MIU404』のキャラクターがその作品世界を超えることはもちろんだが、なによりそれぞれの作品の「裏テーマ」性も作品世界を超える、多角多層的なユニバース作品であることを期待した。

そして、鑑賞を終え、その期待に応えたという意味で非常におもしろい作品であったと感じた。

本記事では、『ラストマイル』の内容やネタバレ的な要素には可能な限り踏み込まず、同シリーズ作である『アンナチュラル』や『MIU404』のシーンを用いて、脚本家である野木亜紀子が描こうと試みた2つの「裏テーマ」について考えてみたい。

『ラストマイル』には『アンナチュラル』の面々が登場 ©2024 映画『ラストマイル』製作委員会
『ラストマイル』には『アンナチュラル』の面々が登場 ©2024 映画『ラストマイル』製作委員会
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さて、冒頭で提示した「裏テーマ」という表現であるが、これは野木自身の言葉からの引用である。

『アンナチュラル』の放送中に刊行された雑誌『美術手帖』(2018年2月号 特集:テレビドラマをつくる 物語の生まれる場所)に収録されている、野木の語りを引用したい。少し長いが、非常に重要な発言なので、以下に抜粋する。

『逃げ恥』の場合はそれが「多様性」ということだったんですけど。(略)いわば「裏テーマ」は、いかに巧妙に出すかをすごく考えますよね。流れのなかで、いかに自然に出せるか。あくまで裏だから。そんな小賢しいことは考えなくても、物語が面白ければいいんですよ、本当は。ただ、自分がドラマオタクなので表面的な面白さ以外のものも求めたくなるんですよね。自分がお客さんだったときに、そういう楽しみ方をしていたから。

「テレビドラマを書くこと、見ること 野木亜紀子×古沢良太」(『美術手帖』 2018年2月 特集 テレビドラマをつくる 物語が生まれる場所)より

*ここからは『アンナチュラル』『MIU404』の結末の示唆を含みます。